「水疱(すいほう)が痛くて仕方ない」「割っても大丈夫だろうか」など、水疱の症状があると困ってしまうでしょう。
皮膚に水疱を生じる疾患はいくつもあり、中には早急な対処が必要な疾患もあります。
ここでは、皮膚に水疱から考えられる疾患にはどのようなものがあるか、特徴や受診の目安についてご紹介します。
水疱ができる疾患とは
皮膚に水疱を生じる疾患として、以下のようなものがあります。
- やけど(熱傷)
- 手荒れ、主婦湿疹
- 虫刺され(虫刺症:ちゅうししょう)
- 帯状疱疹
- とびひ(伝染性膿痂疹:でんせんせいのうかしん)
- かぶれ(接触皮膚炎)
- 水ぼうそう(水痘:すいとう)
- 手足口病
- 単純ヘルペス
- ヘルパンギーナ
- 多汗症
- 薬疹
- 湿疹
やけど(熱傷)
やけど(熱傷)は、皮膚や粘膜が熱によってダメージを受けることをいいます。軽いものも含めると誰でも経験したことがあるでしょう。
熱傷は皮膚が高い温度に一定時間以上さらされることで起こります。一方で、それほど高温とはいえない40〜55℃程度の温度でも、さらされる時間が長ければ、熱傷になってしまうこともあります。
やけどは症状により、I〜Ⅲの重症度に分けられます。自身で見て判断しても、医師の判断とは重症度が異なる場合もあるため、必ず医療機関で判断してもらうようにしてください。
①Ⅰ度熱傷
ダメージが皮膚表面にとどまっている熱傷です。ヒリヒリする痛みや熱感があり、赤くなるものです。
②Ⅱ度熱傷(浅達性:せんたつせい)
ダメージが真皮まで到達した熱傷です。II度以上になると水疱ができて赤くなり、痛みを伴うことが多いです。
③Ⅱ度熱傷(深達性:しんたつせい)
水疱ができ、皮膚は赤~白っぽくなります。ダメージが深くまで到達しているため、強い痛みを伴い、痕が残ることも多いです。治るのには3~4週間程度要します。
④Ⅲ度熱傷
ダメージが皮膚の表面から皮下組織まで及んだ状態です。III度熱傷となると水疱はできず、神経が麻痺しているために痛みもない状態で、皮膚も再生しません。
水疱のできるような熱傷であれば、感染予防のための外用薬を使ったり、傷の治りを早めるための特殊な保護剤を使ったりする必要があります。軽い熱傷だとしても、範囲が広い場合には受診することをおすすめします。受傷直後はあまりひどくないように見えても、深くまでダメージを受けている場合もありますので、一度医療機関を受診しましょう。
手荒れ・主婦湿疹
手荒れや主婦湿疹は、水仕事の多い方によくみられる症状です。水仕事や洗剤、アルコール消毒などによって皮膚表面のバリア機能が低下し、水分が失われやすくなることで発症します。
皮膚の乾燥や、角質の蓄積で皮膚が厚くなる「鱗屑(りんせつ)」と呼ばれる状態から手荒れが始まります。手のひら、手の甲など全体的に赤みや小さな水疱が生じ、皮膚のひび割れ、ただれと悪化していき、痛みやかゆみを伴います。
水を触ったあとはその都度保湿をおこない、皮膚を保護しましょう。症状がある場合には、皮膚科で相談してください。早い段階からステロイドの外用薬を用いれば悪化の防止にもつながります。ゴム製品や洗剤などへのアレルギー反応である可能性もあるので、医師の診察を受けましょう。
虫刺され(虫刺症)
蚊やノミをはじめとして、さまざまな「虫」に刺されたり噛まれたりして、湿疹が出たものが虫刺されです。クラゲなどの海生動物に刺された場合も虫刺されと呼びます。
症状としては、痛みとかゆみが代表的です。かゆみは、刺されたり噛まれたりしたときに体内へ入った物質(唾液や毒成分)へのアレルギー反応が主です。かゆみ・腫れ・水疱などが現れ、たいていの場合は数日〜1週間程度で改善します。
軽症であれば自然に治るのを待つことも可能ですが、症状が強い場合にはステロイドの外用薬やかゆみ止めが必要になるかもしれません。また、どの虫(生き物)による症状かによって、治療法が変わる場合があります。余裕があれば、刺された虫や生き物の写真などを撮っておくとよいでしょう。
帯状疱疹(たいじょうほうしん)
帯状疱疹は、水ぼうそうと同じ水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で発症します。水ぼうそうにかかったことのある人なら、誰でも体内にウイルスが潜伏しており、帯状疱疹を発症する可能性があります。
体の左右どちらかに、ピリピリとした神経痛のような痛みが生じ、その後、水疱を伴う赤い発疹が帯状に現れるのが特徴です。
痛みは、かゆみやしびれのように感じられることもあれば、針で刺したようにピリピリ・チクチクとした痛みに感じたり、焼けるような痛みに感じたりと、人によってさまざまです。症状は全身のどこにでも出ることがありますが、左右片側だけであることが特徴です。
治療には抗ウイルス薬や痛み止めを使います。抗ウイルス薬は発症後72時間以内に飲み始めるのが望ましいとされています。特に、首より上に症状があるときには合併症の危険性が高いため、早い治療がとても重要です。目・耳・首の周囲などに症状がある場合には、すぐに医療機関を受診しましょう。
どの部位であっても、放置すると重症化したり後遺症を残したりすることもあるため、帯状疱疹は早めの受診が必要です。
とびひ(伝染性膿痂疹:でんせんせいのうかしん)
とびひは、正式には伝染性膿痂疹といい、細菌による皮膚の感染症です。ブドウ球菌や溶連菌など、誰の体にも存在する細菌が原因です。
触ると症状が飛び火のように周囲へ広がることから、とびひと呼ばれます。あせも・虫刺されなどをひっかいたり、転んだりしてできた傷に細菌が感染すると、とびひになります。また、鼻の穴の入り口には様々な細菌が常在しているため、鼻を触る癖がある子どもは、鼻の周囲からとびひが始まることも多いです。
傷の部分に水疱ができ、その周りが赤くなってきます。はじめは透明な水疱ですが、徐々に膿を伴うようになり、破れて「びらん」をつくります。
治療には抗菌薬の外用薬や内服薬が必要なほか、かゆみや痛みに対しても対症療法をおこなうことで症状の広がりを抑えられますので、早めに医療機関を受診しましょう。
かぶれ(接触皮膚炎)
皮膚病の一つである「接触皮膚炎」は、一般的に「かぶれ」と呼ばれています。皮膚に原因となるものが接触することで起きる炎症反応で、赤く、ぶつぶつとした湿疹様の皮疹とかゆみを伴います。
皮膚科の外来患者の30%が接触皮膚炎ともいわれ、よく見られる皮膚病です。化粧品や外用薬が原因となることが多いといわれています。
接触皮膚炎は大きく2つのタイプに分けられ、1つは原因となる物質自体が刺激となって起きる「刺激性接触皮膚炎」、もう1つはアレルギーにより皮膚炎が起きる「アレルギー性接触皮膚炎」です。
原因物質の刺激が強く、炎症がひどい場合には、湿疹部分が水ぶくれとなってしまったり、ジクジクとただれてしまったりすることもあります。ひっかいてしまうとその部分から感染症を起こすこともあるため、早いうちに症状を抑えることが大切です。
水ぼうそう(水痘)
水ぼうそう(水痘)は、水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染した際に、全身に発疹や発熱を起こすものです。ごくまれですが肺炎・髄膜炎・脳炎などの合併症を起こすこともあります。
潜伏期間は2~3週間で、熱が出て、発疹が現れるというのが一般的です。発疹はかゆみを伴い、赤く盛り上がって短時間で水疱となり、かさぶたへと変化します。
頭皮から発疹が始まることが多く、その後に体幹や手足に広がっていきます。次々に新しい発疹が出て、赤い発疹・水疱・かさぶたが混在するのが特徴です。1週間ほどで症状はおさまります。
大人になってから感染すると重症化しやすく、また、妊娠初期に母体が水ぼうそうに感染すると、生まれてくる赤ちゃんは「先天性水痘症候群(せんてんせいすいとうしょうこうぐん)」という重い病気になることがあります。
空気感染するウイルスで感染力がとても強く、同じ部屋にいるだけでも感染するほどです。症状が治った後もウイルスは体内から完全には排除されず、神経の中に潜み続けます。
予防のためには、ワクチンの接種が有効です。日本では、2014年から子どもへの水痘ワクチンが定期接種になったこともあり、水ぼうそうを発症する子どもは激減しました。
安静にして自然に治るのを待ってもかまいませんが、発疹が出てから2日以内に抗ウイルス薬の治療を始めると、発疹がかさぶたになるまでの期間が短縮できます。かゆみや発熱など、つらい症状があれば薬で和らげることもできますので、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
手足口病
手足口病は、その名の通り、手・足・口の中を中心に水疱ができる感染症で、子どもを中心とした夏風邪の一種です。コクサッキーA群ウイルスとエンテロウイルスが主な原因です。飛沫感染(咳やくしゃみによる感染)や、接触感染(水疱や便に含まれるウイルスを触ることによる感染)によって広がります。
潜伏期間は3~5日で、手のひらや足の裏、口の中などに2~3mmの小さな水疱があらわれます。口の中の水疱は、破れて潰瘍となり、強い痛みを感じることも多いです。発熱はないことが多いですが、あっても38℃以下であまり高熱にはならない傾向にあります。
手足口病の治療薬はないので、痛みやかゆみ、熱など症状に合わせて必要な治療をおこなうしかありません。元気で食事や水分がとれているのであれば、自宅で様子をみましょう。発熱が長く続く、水分もとれない、嘔吐や頭痛がある場合には、医療機関を受診しましょう。
単純ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(HSV)が原因になる感染症は、口唇ヘルペスや性器ヘルペスです。
実際には、感染する部位は唇や性器に限らず、目の周りなど顔のあらゆる部位・指先・お尻など全身のどこにでも感染する可能性があります。
感染経路は、主に接触感染です。水疱などの病変部位、ウイルスに汚染された指や器具、唾液などに直接触れることで人から人へと感染が広がります。水疱の中にはウイルスがたくさん詰まっていますので、水疱には触れず、触れてしまったら石けんでしっかりと手を洗いましょう。
飛沫感染することもあります。唾液中にヘルペスウイルスが含まれていた場合、くしゃみや咳などを介してウイルスが広がり、皮膚や粘膜に付着すると感染が起こるかもしれません。
口唇ヘルペスの場合、放っておいても自然と治りますが、抗ウイルス薬の外用薬か内服薬での治療をおこなえば治癒までの期間が短くなります。
性器ヘルペスは何度も繰り返しやすく、症状も重いことが多いため、医療機関で治療を受けることをおすすめします。性器や肛門周囲のかゆみや不快感から始まり、赤みや腫れを伴うようになり、その後小さな水疱が多数できます。水疱が破れると痛みが生じ、排尿や歩行も難しくなることもあります。抗ウイルス作用のある外用薬か内服薬、症状が重い場合には点滴治療をおこないます。
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナは子どもを中心に流行する夏風邪の一種で、主にコクサッキーA群ウイルスへの感染が原因となる感染症です。2~4日の潜伏期間の後、突然38~40℃の高熱と喉の痛みが現れるのが特徴です。
患者の9割以上は5歳以下の乳幼児で、1歳が最も多いですが、まれに大人でも発症します。
喉の上側には、水疱を伴う発疹が現れます。発疹の大きさは1~2mmが中心ですが、大きいものでは5mmほどになります。水疱がやぶれると、浅い潰瘍になり、痛みで食事がとりづらくなります。
一般的な経過として、発熱は2~4日で解熱し、それから少し遅れて喉の発疹も消え、痛みもおさまります。
ヘルパンギーナは治療薬がなく、熱や痛みを和らげながら治癒を待つほかありません。治るまで安静にしてください。痛みで水分もとれないとき、高熱が3日以上続くときなどは受診を検討しましょう。
多汗症
暑い、運動した、などの理由がないにも関わらず、必要以上に汗をかいて生活に支障が出てしまう状態は多汗症とよばれます。
多汗症は、全身に多量の汗をかく「全身性多汗症」、脇の下や手のひらなど限られた部分から多量に汗をかく「局所性多汗症」の2種類があります。いずれも、多汗症の原因ははっきりと解明されていませんが、交感神経が人より興奮しやすいことで発汗が促されるのではないかといわれています。
多汗症は日本の人口の5%程度といわれていますが、実際に治療を受けている方はごく一部です。
多汗症の影響で、暑い時期に手のひらや足の裏などに小さな水疱が多数でき、かゆみや痛みを伴うことがあります。これは異汗性湿疹(汗疱:かんぽう)とも呼ばれ、2〜3週間で自然と軽快することが多いです。ただし、痛みやかゆみなどの症状がつらい場合には、ステロイド外用薬などを使ったほうがよいかもしれません。また、多汗症にも、外用薬や内服薬・注射・手術とさまざまな治療の選択肢があります。汗の量やそれによる湿疹、水疱でお困りであれば、受診を検討してください。
薬疹
薬疹とは、薬を内服したり注射したりしたことが誘引となって生じる発疹のことです。中でも、ごく一部の人に生じるアレルギー性の薬疹が問題となります。どのような薬でも薬疹を起こす可能性はあり、絶対に薬疹の出ない薬というものは存在しません。
一般的に薬疹といった場合はアレルギー性薬疹を指しています。何か新しい薬を服用して発疹が出たら、その薬のせいだと考えたくなると思いますが、薬疹なのか、病気による症状で発疹が出ているのか、判断する必要があります。
アレルギー性の薬疹は、服用を始めて1~2週間経過してから現れることが多いです。もし皮膚にブツブツ(湿疹)が出た場合には、服用している薬やサプリメントについて、すべて医師へ知らせてください。お薬手帳などがない場合は、実物を持参しましょう。いつから、どのような湿疹なのか、また、必要に応じて血液検査やパッチテストなどを組み合わせ、原因の成分を突き止められることもあります。
薬疹の中でも非常に重篤な症状が出る「スティーブンス・ジョンソン症候群」や「中毒性表皮壊死症(ちゅうどくせいひょうひえししょう)」には、注意が必要です。皮膚が赤く腫れてやけどのようになり、皮が剥けます。口の中や目など、粘膜にも症状が強く出て、水疱や潰瘍になってしまいます。このような症状がある場合は、すぐに入院して専門的な治療が必要となりますので、医療機関を受診しましょう。
軽度の薬疹であれば、まずは薬の処方元の医療機関へ連絡します。受診するべきか、薬の服用は続けるべきかなど、医師の指示を仰いでください。
湿疹
皮膚のカサカサや赤み、ブツブツしたできもの、水ぶくれなどを総称して「湿疹」と呼びます。湿疹と聞くと病名ではないように感じられる方も多いですが、れっきとした病名です。
湿疹の多くは接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹などで、この記事でもいくつかご紹介してきました。原因に心当たりはなくとも、皮膚に水疱ができてしまうことはあります。
ご紹介した以外には、水虫でも水疱ができますし、頻度は低いですが類天疱瘡(るいてんぽうそう)や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの可能性も考えられます。
まとめ
今回は水疱ができる代表的な疾患についてご紹介しました。
やけどや虫刺され、流行の感染症(ヘルパンギーナなど)など、水疱の原因に心当たりがある場合はごく一部です。水疱の原因に心当たりが全くない場合には、何らかの疾患が原因になっていると考えられます。
早いうちに医療機関を受診し、治療を始めることをおすすめします。