試験の時に手に汗をかいてしまい紙が濡れて破けてしまう、緊張すると手のひら、足の裏がびしょびしょになる、といった経験がある方。脇汗が気になるため洋服の色は汗が目立たないようにしている方。こうした、日常生活に支障が出るほどの汗をかく方は多汗症かもしれません。
多汗症とは
日常生活のなかで、運動をしたり、緊張したりと汗をかくシーンは多くあります。しかし、必要以上に汗をかいてしまい、日常生活に支障がでて悩んでしまう人は、治療を受けた方がよいかもしれません。多汗症について解説していきます。
多汗症とは
人は汗をかくことで体温を調節し、体の状態や気温の変化に対応しています。暑い時、運動して体温があがった時などに汗をかくのは正常な反応です。しかし、必要以上に汗をかいて生活に支障が出てしまう場合、多汗症とよばれます。
多汗症の原因
多汗症には2種類あり、「全身性多汗症」は全身に多量の汗が、「局所性多汗症」はわきの下や手のひら、足の裏など体の限られた一部に多量に汗がでることをいいます。
多汗症の原因ははっきりと解明されていませんが、交感神経が人より興奮しやすいことで発汗が促されるのではないかといわれています。
多汗症はどんな人に多い
多汗症は日本の人口の5%程度といわれていますが、医療機関にかかっているのは、その中の1割にも満たず、実際に治療を受けている方はごく一部であるようです。
特定の原因がない「原発性多汗症」と、糖尿病や肥満、更年期障害などの原因がある「続発性多汗症」があります。また向精神薬やステロイド薬など薬が原因で異常な発汗がみられる「薬剤性多汗症」もあります。
多汗症の症状
びしょびしょになるほど異常な「多量の発汗」が多汗症の症状です。日常生活に支障をきたすほどの発汗が強いストレスとなり、さらに引きこもりなど社会生活にも影響がでてしまうこともあります。多汗症の症状について解説していきます。
多汗症の特徴
必要以上に汗をかいてしまうのが多汗症。多くは手のひらや足の裏、脇の下で多量の汗がみられます。多汗症の特徴として以下のような特徴が挙げられます。
①常に発汗するのではなく、睡眠中は発汗が止まっている
②左右同時に発汗する
③1週間に1回以上、多汗の症状が見られる
多汗症の重症度
多汗症の重症度はHyperhidrosis disease severity scale(HDSS)という方法が用いられ、自覚症状により4段階に分類されます。
グレード1 まったく気づかない、邪魔にならない。
グレード2 我慢できる、たまに邪魔になる。
グレード3 どうにか耐えられる、しばしば邪魔になる。
グレード4 耐えがたい、いつも邪魔になる。
このうちグレード3、4が重症とされており、手のひらを開いている状態で汗が滴るほどの症状がみられる場合もあります。
また、汗を定性的に測るヨード紙法では手の形全体が変色する場合を重症とし、換気カプセル法など定量的測定の場合には一定値以上を重症とします。
日常生活に支障がでる
日常生活に支障がでるほどの汗をかく場合は、医療機関で受診されることをおすすめします。
例えば次のような場合です。
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学校でテストを受ける時に汗で答案用紙が破れて、鉛筆で書けなくなってしまう
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汗で鉄棒ができない
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球技で汗が気になり球が扱えない
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キーボードを使う時に不便を感じる
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レシートの受け渡しが気になる
このような形で日常生活に影響がでているのであれば、多汗症の診断に至ることが多いので、早めに受診しましょう。
多汗症の診断
多汗症の診断にいたる基準や検査について解説していきます。
多汗症の診断基準
内科的に問題があったり、薬の影響で多汗症をきたしたりしている場合は続発性多汗症といい、多汗症の原因が特にない場合は原発性多汗症と診断されます。
日本皮膚科学会のガイドラインによると「局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められ、以下の6症状のうち2項目以上当てはまる場合」を原発性多汗症と診断します。その6症状は以下の通りです。
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最初に症状が出るのが25歳以下である
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身体で対称性に発汗がみられる
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睡眠中は発汗が止まっている
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1週間に1回以上多汗のエピソードがある
(書類を触ったら汗でインクがにじんだなど)
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家族に多汗症の人がいる
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それらによって日常生活に支障をきたしている
(他人と手をつなげない、汗じみが気になって好きな衣服を着られないなど)
発汗検査
発汗の量を測定するのに、定性的な方法と定量的な方法がありますが、一般的にはヨード紙法(ヨードでんぷん法、汗滴プリント法)を用いた定性的方法が用いられます。
ヨード紙法はヨード紙が発汗部位に触れると暗色に色が変わる性質を利用し、見ためで汗の量がわかりやすい方法です。定量的には換気カプセル法などがあり、皮膚をカプセルで密閉し、カプセル内の汗の量を測定します。
多汗症の治療
多汗症の症状がでる内科的疾患など基礎疾患がある場合にはそちらの治療を優先します。
原発性多汗症の治療は従来からの方法として外用や内服、注射などがあります。わきの下の多汗症に対して、最近新たにエクロックゲル、ラピフォートワイプという治療薬も登場しました。
外用薬
わきの下の多汗症に対してまず行われる治療としては、最近新たに登場したエクロックゲル、ラピフォートワイプという薬です。原発性腋窩多汗症で保険適応がある外用薬で、交感神経の働きをブロックすることで効果を発揮します。わきの下以外の部位に行われる治療は、塩化アルミニウムの外用/密封療法です。保険適応外ですが足の裏や手のひらの多汗症では第一選択とされ、頭部にも効果があります。
ボツリヌス毒素の局所注射
A型ボツリヌス毒素の局所注射療法は手のひらや足の裏、脇の下、頭、顔などいずれの部位でも第2選択とされる方法です。重症の腋窩多汗症では保険適応となっていますが、手のひら、足の裏や頭、顔については保険適応外となるため医療費は高額となります。
イオントフォレーシス
手のひら、足の裏の治療で用いられ、塩化アルミニウムと同じく第一選択の治療法です。貯めた水の中に手のひら、足の裏を入れ、電流を流すことで症状の改善が期待できます。
胸腔鏡下胸部交感神経切除術(ETS)
手のひらの多汗症で第3選択の治療法です。ほかの方法で効果がないときに用いられ、内視鏡を使って全身麻酔下で胸部の交感神経を遮断します。手術時間は10~20分程度、安全性も効果も高い手術ですが、他の場所で異常発汗するなど合併症の可能性がある方法です。
内服薬
多汗症の治療薬としては抗コリン薬が用いられることが多く、主に外用が効かない場合に使用されます。抗コリン薬のなかでも保険適応となるのは臭化プロバンテリン(商品名 プロバンサイン)が唯一の薬剤です。
多汗症のセルフケア・予防
交感神経が優位になることで発汗が促されるため、ストレスへ対処すること、生活習慣を整えることがセルフケアにつながります。
ストレスをためない
ストレスは交感神経が優位になる原因となります。過剰なストレスをためないように、日ごろからストレスケアを行いましょう。睡眠をしっかりとることも大切です。
清潔を保つ
多量の汗をかき、皮脂などと混ざった環境は菌が繁殖しやすく、においのもとに。汗をかいたあとに肌着をかえる、シャワーを浴びるなど清潔を保つことをおすすめします。
刺激物を避ける
食事でスパイスの効いた食事や酸味が強いもの、カフェインなどは交感神経に働きかけ汗の量が増えてしまいます。刺激物やカフェインを避けたバランスのとれた食事を心がけてください。
クリニックプラスでの多汗症の診療の流れ
①問診
症状などの病歴について話を聞きます。LINEの事前問診にお答えいただくと、診療がスムーズに行われます。
②診察
患部の診察を行います。皮膚疾患の診断は視診が重要です。医師が丁寧に診察を行っていきます。
③治療
外用薬や内服薬を用いて治療を行っていくと同時に、症状を増悪させないための生活指導も行っていきます。
多汗症は、定期的な通院が重要です。クリニックプラスは、日々お忙しい方でも通院しやすいように、事前LINE問診や、事前クレジットカード決済システムなど、テクノロジーを活用することで待ち時間を少しでも短くする取り組みを行っています。多汗症でお困りの方は、是非一度ご相談にいらしてください。