発熱は、身体の中の免疫が体内に入ってきたウイルスや細菌と戦うことで起きる症状です。(自己免疫疾患などの例外もあります)
発熱したら、熱の原因(熱源)がどこにあるのかを探ることが大切です。
喉の痛みや咳などの症状を一緒に認める場合には判断がつきやすいですが、熱以外に何も症状がない場合は気をつけなくてはいけません。
特に、体が震えて止まらない悪寒戦慄(おかんせんりつ)を伴う高熱が出ている場合は、血液中に細菌が入り込んでしまっている可能性があり、入院の必要性もあります。
今回は、発熱を伴う代表的な疾患をいくつかご紹介します。
中にはすぐに病院を受診した方が良い疾患もありますので、参考にしてみてください。
発熱したときに考えられる疾患?
発熱したら、発熱以外に何の症状があるかに注目することが大切です。
例えば、上気道症状(咳・鼻水・のどの痛み)やだるさ、頭痛、消化器症状(腹痛・下痢・嘔吐)、関節痛、皮疹、首の痛み・腫れなどが+αで認める症状として挙げられます。
また、高熱以外に症状がはっきりしない疾患もあり、そういった中には放っておいてはいけない疾患も隠れているので注意が必要です。
ここでは、発熱+αの各症状ごとに考えられる疾患を、いくつか紹介していきたいと思います。
発熱+上気道症状(咳・鼻水・喉の痛み)
考えられる疾患
・風邪
・インフルエンザ
・新型コロナウイルス感染症
風邪
熱が出た場合に、多くの方が最初に疑うのが風邪でしょう。
風邪はほとんどの場合で自然に治る「ウイルス」による上気道(鼻からのどにかけての部分)の感染症を指します。
鼻水・のどの痛み・咳の3つの症状が同時期に同程度存在するのが、いわゆる典型的な風邪です。
インフルエンザ
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発症する感染症で、通常は冬の時期に流行します。
症状は風邪と非常によく似ていますが、以下のような特徴があります。
・発熱などの症状が急に現れる
・高熱(38℃以上)になりやすい
・関節の痛みや倦怠感など、全身の症状が出やすい
新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症は、2019年末に世界中へ急速に流行が広がり、現在も感染の流行が繰り返されている感染症です。
インフルエンザと同様に、風邪の症状と非常に似ていますが、以下のような特徴があります。
・呼吸器の症状(咳や息切れ)が多く、重症化すると重篤な肺炎を引き起こし、命に関わる
・味覚や嗅覚に異常をきたす場合がある
・倦怠感や集中力の欠如(ブレインフォグ)などの後遺症を残す場合がある
ただし、高熱や咳などつらい症状が出る場合もあれば、全くの無症状の場合もあり、症状の有無だけでは判断が難しいといえます。
発熱(微熱)+だるさ
考えられる疾患(風邪以外に)
・急性肝炎(きゅうせいかんえん)
・急性心筋炎(きゅうせいしんきんえん)
・無痛性甲状腺炎(むつうせいこうじょうせんえん)
・結核(けっかく)
・感染性心内膜炎(かんせんせいしんないまくえん)
急性肝炎
38℃近い発熱が3日以上続き、熱やだるさ以外のはっきりとした症状がなく、食事のにおいが鼻につくような食欲の低下や、吐き気を伴うような場合には急性肝炎が疑われます。
急性肝炎は血液検査で肝機能をチェックするだけで診断することが可能です。
疑わしい症状がある時は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
急性心筋炎
今までに経験したことのないような強いだるさを感じたら、急性心筋炎を患っている可能性があります。
まずは血圧や脈拍に異常がないかを確認します。
心電図や胸部レントゲン検査、血液検査、心臓超音波検査などを行い、診断につなげます。
急性心筋炎は、見逃すと命に関わる疾患なので注意が必要です。
無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎では、のどぼとけの下にある蝶(ちょう)のような形をした甲状腺という臓器に、一時的な炎症が生じます。
その結果、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンが血液の中に漏れ出てくることで、血液中の甲状腺ホルモンの量が多くなり、甲状腺中毒症(こうじょうせんちゅうどくしょう)と呼ばれる症状が起こる病気です。
多くの場合、症状は一時的であり、自然におさまります。
熱はあっても微熱程度でおさまることが多く、痛みを伴わないため、無痛性甲状腺炎と呼ばれます。
結核
結核と言えば咳の症状が強いイメージがあると思いますが、咳がそこまでひどくない場合もあるので注意しましょう。
微熱やだるさに加えて、3週間以上咳が続いているような場合には、結核を疑って、胸部レントゲン写真を撮影することが望ましいです。
感染性心内膜炎
頻度としてはまれですが、脳梗塞などの重篤な疾患につながるので、見逃してはいけない疾患の1つです。
心臓の中にある弁に、細菌が付着して発症することが多いです。原因がわからない長期の微熱とだるさがあった場合、感染性心内膜炎を発症していることがあります。
聴診で心臓の音に雑音が聴こえる場合は、感染性心内膜炎を疑って、血液培養検査や心臓超音波検査などを行う必要があります。
発熱+頭痛
考えられる疾患(風邪以外に)
・髄膜炎(ずいまくえん)
髄膜炎
発熱に加え、今までに感じたことのないような頭痛がある場合には、髄膜炎を発症している可能性があります。
ぐったりしている場合や、嘔吐している場合、意識障害があるような場合には、積極的に髄膜炎を疑います。
髄膜炎を疑った場合、髄液検査を行う必要があります。
当院で髄液検査は行っていないので、速やかに中核病院や基幹病院をご紹介します。
発熱+消化器症状(腹痛・嘔吐・下痢)
考えられる疾患(風邪以外に)
・胃腸炎
・虫垂炎
胃腸炎
胃腸炎は発熱に加えて、嘔気・嘔吐・腹痛・下痢といった消化器症状を伴う病気で、「おなかの風邪」と表現されることもよくあります。
多くはウイルス性で、治療をしなくてもいずれよくなることがほとんどですが、重篤な疾患が紛れていることもありますので注意が必要です。
いわゆるウイルス性腸炎の典型的な症状および経過は、まず「吐き気」「嘔吐」から始まり、続いてみぞおち周辺の「腹痛」、そしておしりからおしっこが出るような感じの「下痢」、これら3つの症状のうち最低2つの症状が数日の経過で見られる場合、胃腸炎を疑います。
特に、胃腸炎の症状として重要なのは「下痢」です。
逆に言えば、「下痢」がなければ胃腸炎以外の病気も考える必要があります。
虫垂炎
発熱+消化器症状で、胃腸炎に紛れてよくある疾患かつ見逃してはいけない疾患が虫垂炎です。
胃腸炎に比べて下痢の症状が出ることは少なく、腹痛がメインの症状になることが多いです。みぞおちの痛みから始まり、徐々に右の下腹部に痛みが移動するようであれば、虫垂炎を疑います。
診断にはお腹のCT検査を施行します。
重症の場合は緊急手術が必要なこともあるので、見逃してはいけない疾患の1つです。
強い腹痛と発熱を認める場合には、医療機関を受診するようにしましょう。
発熱+関節痛
考えられる疾患(風邪以外に)
・関節炎
関節炎
風邪でも関節痛を認めることはありますが、場合によっては関節炎をきたしている場合もあります。
関節炎を起こしている場合は、痛みに加えて、関節が赤くなっていたり、腫れていたり、熱感を伴っていたりします。特に関節が動かしにくいという場合には、関節炎を起こしていると判断して良いでしょう。
関節炎を起こす原因には、ウイルスや細菌などの感染症の他に、尿酸やピロリン酸カルシウム(CPPD)と呼ばれる結晶成分が関節に沈着することで発症する、痛風や偽痛風といった疾患があります。
発熱+皮疹
考えられる疾患(風邪以外に)
・手足口病(てあしくちびょう)
・梅毒(ばいどく)
・水ぼうそう(水痘 すいとう)
・蜂窩織炎(ほうかしきえん)
・伝染性紅斑(でんせんせいこうはん)
手足口病
手足口病は、その名の通り、手・足・口の中を中心に水疱が出来る感染症で、こどもを中心とした夏風邪の一種です。コクサッキーA群ウイルスとエンテロウイルスが主な原因です。
咳やくしゃみによる飛沫感染(ひまつかんせん)や、水疱や便に含まれるウイルスを触ることによる接触感染によって広がります。
潜伏期間は3~5日で、手のひらや足の裏、口の中などに2~3mmの小さな水疱が現れます。
口の中の水疱は、破れて潰瘍となり、強い痛みを感じることも多いです。
発熱はないことが多いですが、あっても38℃以下であまり高熱にはならない傾向にあります。
手足口病の治療薬はないので、痛みやかゆみ、熱など症状に合わせて必要な治療を行うしかありません。
元気で、食事や水分が摂れているのであれば、自宅で様子をみましょう。
発熱が長く続く、水分も摂れない、嘔吐や頭痛がある場合には、医療機関を受診してください。
梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という病原体が原因の感染症です。
性行為感染症(STI:Sexually-transmitted Infections)として知られており、感染者の血液や腟分泌液・精液などに含まれた病原体が粘膜や皮膚に接触し、侵入することで感染します。
感染して3週間ほどで、性器や口・肛門など梅毒が侵入した粘膜の部位に、できものや発疹がでます。
3mm~3cm程度のもので1か月ほどで自然に消えてしまいます。
3か月ほど経つと、掌や足の裏・体に赤い発疹が出てきます。
バラ疹という特徴的な症状で痛みのない発疹が全身に及び、熱や倦怠感、リンパ節腫脹などの全身症状も出現します。
基本的には、ペニシリン系の抗生剤の内服や筋肉注射(ステルイズ®)による治療を行います。
水ぼうそう(水痘)
水ぼうそう(水痘)は、水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染した際に、全身の発疹や発熱を起こすものです。
ごくまれですが、肺炎、髄膜炎、脳炎などの合併症を起こすこともあります。
潜伏期間は2~3週間で、熱が出て、発疹が現れるというのが一般的です。
発疹はかゆみを伴い、赤く盛り上がって短時間で水疱となり、かさぶたへと変化します。
頭皮から発疹が始まることが多く、その後に体幹や手足に広がっていきます。
次々に新しい発疹が出て、赤い発疹・水疱・かさぶたが混在するのが特徴で、1週間ほどで症状はおさまります。
大人になってから感染すると重症化しやすく、また、妊娠初期に母体が水ぼうそうに感染すると、生まれてくる赤ちゃんは先天性水痘症候群(せんてんせいすいとうしょうこうぐん)という重い病気になることがあります。
空気感染するウイルスで感染力がとても強く、同じ部屋にいるだけでも感染するほどです。
症状が治った後もウイルスは体内から完全には排除されず、神経の中に潜み続けます。
予防のためには、ワクチンの接種が有効です。
日本では2014年から子どもへの水痘ワクチンが定期接種になったこともあり、水ぼうそうを発症するこどもは激減しました。
安静にして自然に治るのを待っても構いませんが、発疹が出てから2日以内に抗ウイルス薬の治療を始めると、発疹がかさぶたになるまでの期間が短縮できます。
かゆみや発熱など、つらい症状があれば薬で和らげることもできますので、必要に応じて医療機関で受診しましょう。
蜂窩織炎
蜂窩織炎は、小さな傷から細菌が侵入し、皮下の深い部分に繁殖することで発症する感染症です。
全身のあらゆる部位で発症する可能性がありますが、比較的多いのは足の蜂窩織炎です。
皮膚が赤く腫れたり、熱を持って痛みが出たりします。
膿をもつこともあり、発熱やだるさといった症状が出ることも少なくありません。
アトピーのある方や、免疫が低下している方で発症しやすくなります。
蜂窩織炎は抗菌剤による治療が必要になります。
悪化する前に受診し、適切な処置を受けるようにしてください。
伝染性紅斑
伝染性紅斑は、ヒトパルボウイルスB19というウイルスによる感染症です。
りんご病とも呼ばれ、リンゴのように頬が赤くなることで知られています。
多くは小児にみられますが、成人でも発症します。
頬が赤くなることで有名ですが、そこから足や手など、四肢に「レース状」「網目状」と表現される発疹が広がっていくのも特徴的です。
また、頬が赤くなる7~10日前、感染して1週間前後のタイミングで風邪の症状が現れたり、微熱が出たりすることがあります。
成人の場合は、このような典型的な症状が出ないことも多く、見た目ではわからない程度に急に手足がむくんだという訴えで受診される方も多いです。
伝染性紅斑は基本的には自然に症状が改善していくもので、特別な治療法・治療薬はありません。
痛みがあれば鎮痛剤を使用する、かゆみがあれば抗ヒスタミン剤などで症状を緩和させる、といった対症療法が主となります。
発熱+首の痛み(腫れ)
考えられる疾患(風邪以外に)
・伝染性単核球症(でんせんせいたんかくきゅうしょう) 通称:キス病
・亜急性甲状腺炎(あきゅうせいこうじょうせんえん)
・菊池病
伝染性単核球症
伝染性単核球症は、主にEBウイルスに感染することで起こる感染症で、10~20代の若年層に多くみられます。
別名「キス病」と呼ばれることもあります。
発熱、のどの痛み、倦怠感、首周りのリンパ節の腫れ、発疹などの症状が出ます。
のどの痛みはひどくなる場合も多く、のどの奥に膿のようなものが見られることもあります。
熱やのどの痛みは1~2週間程度でおさまることが多いですが、1か月以上続く場合もあります。
また、熱が下がっても倦怠感だけが数か月続くようなことも珍しくありません。
肝臓や脾臓が腫れることもあります。腹部に強い圧力や衝撃が加わると、腫れた脾臓が破裂する恐れもあるので、腹部に強い圧力や衝撃が加わるような運動は避けるようにしましょう。
EBウイルスに効く薬はないため、治療は症状を抑える対症療法となります。
のどの痛みや熱、倦怠感がなかなかよくならないような場合には、伝染性単核球症が原因の可能性もあるので、医療機関を受診するようにしてください。
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、のどぼとけの下にある甲状腺という臓器に炎症が起こり、甲状腺の組織が壊れてしまう病気です。首の腫れや痛みを伴い、熱が出ることもあります。
首の痛みは、のどやあごの下、耳のあたりに感じることもあります。
治療は主に、痛みや炎症に対して投薬を行います。
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)などの痛み止めや、ステロイドを使用する場合もあります。
亜急性甲状腺炎は通常数か月以内に治まりますが、甲状腺中毒症という状態になると、甲状腺ホルモンが過剰になって起きる強い倦怠感や動悸などの症状が出現します。
日常生活に支障をきたすこともありますので、気になる症状がある場合には速やかに医療機関を受診するようにしてください。
菊池病
菊池病は、20代くらいの若年層が多く、発熱+痛みを伴う首のリンパ節の局所的な腫れを認める場合に疑います。
のどの痛みは、原則として認めないことも特徴です。
無治療でもほとんどが4週間程度で自然に治る良性の疾患ですが、まれに再発や、全身性エリテマトーデス(SLE)という自己免疫疾患へ移行することもあるので注意が必要です。
治療は基本的に、解熱鎮痛剤などでの対症療法になります。
高熱・悪寒(震えが止まらない)のみで、その他の症状がはっきりしない
考えられる疾患(風邪以外に)
・急性腎盂腎炎(きゅうせいじんうじんえん)
急性腎盂腎炎
膀胱炎を放置していると、急性腎盂腎炎に発展するケースがありますが、必ずしも膀胱炎症状から始まるわけではありません。
背中を左右叩いた時に、片側だけに痛みを感じることが多いですが、背中の痛みに最初気がつかない方も多くいます。(叩打痛 こうだつう)
採血や尿検査、必要に応じてCT検査を行います。
急性腎盂腎炎の診断がついたら尿の培養検査を行い、抗菌薬による治療を開始しますが、重症例は入院が必要です。
発熱がつらいときは受診を
発熱+αで表れる症状別に、考えられる疾患をいくつかご紹介しましたが、発熱をきたす疾患は今回ご紹介したもの以外にもたくさんあります。
発熱した時には、「風邪だろう」で片付けずに、医療機関を受診して、適切な診察や検査・治療を受けるようにしましょう。
→詳細は「内科 風邪」をご参照ください
→詳細は「内科 インフルエンザ」をご参照ください
→詳細は「小児科 風邪」をご参照ください
→詳細は「小児科 インフル」をご参照ください