病気の治療のために毎日薬を飲んでいる方は多いと思いますが、治療のために飲んでいる薬なので、まさかその薬が原因で咳症状が出るとはなかなか気づかないでしょう。
薬剤性咳嗽(やくざいせいがいそう)とは、薬が原因で引き起こされる咳症状のことです。
ここでは、薬剤性咳嗽の症状・原因から治療までを解説します。
薬剤性咳嗽とは
薬剤性咳嗽は、飲んだ薬が原因で引き起こされる咳症状のことです。
副作用に咳がある代表的な薬剤は、ACE阻害剤(エースそがいざい)という高血圧の薬です。
それ以外では、アスピリン喘息患者が、NSAIDs(エヌセイズ)という解熱鎮痛剤を飲んだ時に喘息発作が起きて、咳が出ることがあります。
また、薬の副作用により間質性肺炎(かんしつせいはいえん)という肺障害が起きた場合にも、咳が出ることがあり、これも薬剤性咳嗽にあたります。
薬剤性咳嗽の原因
薬剤性咳嗽の原因は、飲んだ薬です。
医師の処方した薬だけでなく、市販薬やサプリメント・漢方薬・健康食品なども原因になります。
薬が直接の原因となって咳が出る場合と、間質性肺炎などの呼吸器の病気を引き起こすことで咳が出るといった、薬が間接的な原因となる場合があります。
薬剤性咳嗽の患者側のリスク因子
薬剤性咳嗽を起こしやすい患者がもつリスク因子には、以下のものなどがあります。
- 高齢
- 男性
- 栄養状態が良くない
- 喫煙歴がある
- もともと間質性肺炎にかかっている
- 喘息などの呼吸器系の病気をもっている
喫煙は肺の機能障害につながる可能性があるため、禁煙を心がけましょう。
ただし、ACE阻害剤による咳の副作用は、高齢・女性・アジア人・非喫煙者・心不全患者で多いとの報告もあり、気になる場合は医師の診察を受けましょう。
薬剤性咳嗽の薬剤側のリスク因子
薬が肺の細胞を直接障害することで咳が出るようになる場合と、薬を飲んだことでアレルギー反応が起きて咳が出るようになる場合があり、どちらも薬剤側のリスク因子です。
薬剤性咳嗽の原因となる薬
- ACE阻害剤(高血圧治療薬):エナラプリル、カプトプリル など
- NSAIDs(解熱鎮痛薬):アスピリン、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ピロキシカム など
- 漢方薬:小柴胡湯、小青竜湯、柴苓湯 など
- 抗悪性腫瘍薬:ゲフィチニブ、パクリタキセル など
- 抗不整脈薬:アミオダロンなど
- 抗リウマチ薬:メトトレキサート など
- 抗菌薬:セフトリアキソン、セフェピム など
多くの薬が原因となる可能性があるため、咳症状があるときには、薬の服用歴がわかるようにお薬手帳を持って、医師の診察を受けるようにしましょう。
薬剤性咳嗽が起きやすい時期
細胞障害性の薬の場合、薬を飲み始めて数週間から数年で症状が出るのに対して、アレルギー反応が出る薬の場合、薬を飲み始めて1~2週間で症状が出やすくなります。
数年経ってから症状が出ても、なかなかその薬が原因だと思いつかないかもしれません。
今飲んでいる薬がある、または以前薬を飲んでいたという方は、医師の診察を受けるときに必ず薬の服用歴を伝えるようにしましょう。
薬剤性咳嗽の症状
咳は痰が絡んでいない乾性の咳で、咳以外にも、息切れ・呼吸困難・発熱・倦怠感・皮疹などの症状があらわれます。
薬剤性咳嗽の検査・診断
咳や息切れなどの症状や薬の服用歴を問診し、胸の音を聴診器で聞いて肺雑音を確認したり、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂)を測定したりします。
薬の服用歴の問診では、現在飲んでいる薬だけでなく、以前飲んでいた薬についてもできるだけ確認します。
飲みはじめて数か月してから症状が出る薬もあるからです。
またレントゲンだけでなく、さらに詳しく評価するためにCTの撮影も行います。
血液検査もあり、間質性肺炎の場合には「KL-6」「SP-A」「SP-D」の値が高くなるので、「白血球」や「CRP」などの炎症の程度を確認する検査値とともに測定される場合があります。
肝機能の低下がないかも確認します。
検査結果とともに、
- 原因と考えられる薬を飲んでいる
- それ以外に原因となる病気がない
- 原因と考えられる薬を中止したら症状が改善した
これらを総合的に検討して、最終的に診断されます。
他の肺炎と分けて診断するのは難しい?
他の肺炎と分けて診断するのは難しいので、薬の服用歴をしっかり確認することが非常に重要です。
医師の診察を受ける時には、きちんと服用歴がわかるようにお薬手帳も一緒に持ってくるように心がけましょう。
薬剤性咳嗽の治療
薬剤性咳嗽の治療では、原因と考えられる薬を中止して様子をみます。
ただし、アスピリン喘息患者にNSAIDsによる喘息発作が起きた場合は、急激に症状が悪化する可能性があるため、酸素投与やアドレナリンの投与を行うなど、救急対応が必要になります。
アスピリン喘息の発作が起きたことのある方は、総合かぜ薬などにNSAIDsが入っていると思わずに、うっかり薬を飲んでしまうことのないように注意しましょう。
原因薬剤を中止してもよくならないときは?
薬を中止してもよくならないときや、呼吸不全の場合には、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイドを使います。
炎症を抑え、咳症状や呼吸困難を改善します。
薬剤性咳嗽の疑いで来院された方の当院での診療の流れ
①問診
いつからどの様な症状が出ているか、診断・治療に必要な情報を集めるために、医師がいくつか質問します。
(LINEの事前問診にお答えいただきますと、よりスムーズな診療を提供できますのでご協力ください)
特に、3か月以内に飲み始めたお薬やサプリメント、漢方薬などは原因として可能性が高いので事前に確認してください。
②身体診察
呼吸音の異常がないか、リンパが腫れていないかなど、医師が丁寧に診察を行います。
③検査
薬剤性咳嗽を疑った場合は、まずはレントゲンを撮影します。
異常な陰影を認めた場合は細菌性肺炎の可能性もありますが、薬剤が原因の薬剤性肺障害等の可能性もあります。
場合によっては、CT撮影や詳しい検査のために、専門の医療機関にご紹介いたします。
ACE阻害薬のように咳が有名な副作用の薬を知らずに飲んでいるかもしれません。
しっかりお話を聞いて、診断をいたします。
薬剤性咳嗽は、飲んだ薬が原因で引き起こされる咳症状です。
薬を飲み始めてから数年後に症状が出る場合もあり、なかなか薬が原因だと気づきにくいでしょう。
まずは原因となる薬を中止するのが治療となるため、気になる症状がある場合は、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。