コラム

左心不全

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階段を上るだけでひどい息切れがする、夜中に息苦しくて目が覚める、少し歩いただけで動悸がする。このような症状に心当たりがある方は、左心不全の可能性があります。左心不全は心臓の左側にある左心室の機能が低下することで、肺に血液がたまり、全身への血液供給も不十分になる状態です。高齢者では「年のせい」と見過ごされることが多く、発見が遅れてしまいがちです。ここでは左心不全の原因から症状、検査、治療、予防まで詳しく解説します。

左心不全とは

心臓の構造と左心室の役割

心臓は4つの部屋で構成されていますが、その中でも左心室は全身に酸素豊富な血液を力強く送り出す、いわばメインのポンプです。左心室が1回拍動するたびに約60~80mLの血液が大動脈を通じて全身に供給されています。

左心不全はこの左心室のポンプ機能が何らかの原因で低下した状態です。左心室の働きが落ちると、肺から戻ってきた血液をうまく送り出せなくなり、肺に血液がたまる「肺うっ血」が生じます。同時に全身への血液供給が減少するため、各臓器が酸素不足に陥ります。

左心不全が右心不全に発展するリスク

左心不全が長期化すると、肺の血圧が上昇して右心室にも負荷がかかります。その結果、右心不全を併発して「両心不全」に進展するリスクがあります。左心不全を早期に治療し、右心への波及を防ぐことが重要です。

増加する左心不全とHFpEFの特徴

左心不全は心臓の病気の中でも特に多い病態であり、日本では高齢化に伴って患者数が年々増加しています。加齢によって心筋が硬くなることで発症する拡張不全型の左心不全(HFpEF)は、特に高齢の女性に多く見られる傾向があります。駆出率が保たれているため見逃されやすいのが特徴ですが、適切な治療によって症状の改善が期待できます。

左心不全の原因

左心不全の原因として頻度が高いのは以下の疾患です。

  • 虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症):左心不全の原因として最も多く、心臓の血管が狭くなったり詰まったりすることで心筋にダメージを与えます。
  • 高血圧:長期間の高血圧は左心室の壁を厚くし(心肥大)、やがて心筋が疲弊してポンプ機能が低下します。
  • 心筋症:心筋そのものが変性・拡張し、収縮力が低下する病気です。
  • 弁膜症(大動脈弁・僧帽弁):弁の狭窄や閉鎖不全が左心室に過大な負担をかけます。
  • 心筋炎:ウイルスなどの感染で心筋に炎症が起こり、ポンプ機能が急激に低下することがあります。
  • 加齢:心筋が硬くなり拡張機能が低下します。高齢者に多い「HFpEF(駆出率が保たれた心不全)」はこのタイプです。

左心不全の症状

肺うっ血による症状

左心室から血液を送り出せなくなると、肺に血液がたまる肺うっ血が生じ、以下のような呼吸器症状が現れます。

  • 階段の昇降や重いものを持つときの息切れ
  • 横になると息苦しく、起き上がると楽になる起坐呼吸(きざこきゅう)
  • 夜間の呼吸困難(夜中に咳や息苦しさで目が覚める)
  • ヒューヒュー・ゼイゼイという喘鳴
  • 咳(重症例ではピンク色の泡状痰を伴うことも)

全身の血流低下による症状

全身に十分な血液が供給されなくなることで、以下の症状が現れます。

  • 動悸
  • 疲れやすさ・倦怠感
  • 手足の冷え
  • 尿量の減少
  • 集中力の低下

高齢の方では「年齢のせいだろう」と見過ごしやすい症状ばかりです。以前は楽にできていた動作がつらくなった、坂道や階段での息切れが増したなどの変化を感じたら、早めの受診を検討してください。

左心不全の検査・診断

左心不全の診断では症状の聞き取りと身体診察に加え、以下の検査を組み合わせて評価します。

  • 聴診:心臓の雑音や肺の水泡音(ラ音)を確認します。肺うっ血があるとラ音が聴取されます。
  • 心エコー検査:左心室の収縮力(駆出率:EF)や弁の状態を評価します。EFが低下している「収縮不全」と、EFは保たれているが心臓が硬くなっている「拡張不全」を区別するうえでも重要です。
  • 胸部レントゲン検査:心臓の拡大や肺うっ血の有無を画像で確認します。
  • 血液検査(BNP/NT-proBNP):心臓にかかっている負担を数値で評価します。
  • 心電図検査:心肥大や不整脈、心筋虚血のチェックに用います。

※心エコー検査や胸部レントゲン検査は、医療機関によって受けられない場合があります。詳しくは各院のお問い合わせよりご相談ください。

左心不全の治療

原因疾患の治療

左心不全の改善のためには、原因疾患の治療が不可欠です。心筋梗塞や狭心症に対するカテーテル治療、弁膜症に対する手術など、原因に応じた根本治療を行います。

薬物療法

  • 利尿薬:肺うっ血を改善し、息切れの軽減に寄与します。
  • β遮断薬:心臓の負担を軽減し、長期的な予後改善が証明されています。
  • ACE阻害薬/ARB:心臓のリモデリング(心臓が大きくなること)を抑制します。
  • ARNI(エンレスト):従来のACE阻害薬/ARBよりも強い心保護効果が期待される新しい薬です。
  • SGLT2阻害薬:心不全の予後改善効果が確認され、近年広く使われるようになりました。
  • 強心薬:ポンプ機能を補助します。急性期や重症例で使用されます。

左心不全の予防と管理

治療で症状が改善しても、心臓への負担が続けば再発する可能性があります。日常生活の中で以下のことを意識しましょう。

  • 塩分は1日6g未満に抑える(体液貯留と高血圧の予防)
  • 水分摂取量は主治医の指示に従う
  • 処方された薬は自己判断で中止せず確実に服用する
  • 禁煙を徹底する(心筋梗塞リスクの低減)
  • 心臓に過度の負担がかからない範囲で適度に運動する
  • 毎日の体重測定で体液管理を行う
  • インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種を検討する

左心不全の管理では定期的な通院が不可欠です。心エコー検査やBNPの定期測定によって心機能の変化を早期にとらえ、薬の調整を行っていくことで、急性増悪を防ぎ安定した状態を維持できます。症状が安定しているときこそ油断せず、継続的な管理を続けることが長期的な予後改善につながります。

左心不全の悪化を防ぐためには、感染症の予防も重要です。風邪や肺炎は心臓に大きな負担をかけ、心不全の急性増悪を引き起こすことがあります。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種を毎年検討しましょう。また、過労やストレスも心不全の悪化因子となりますので、十分な休息を心がけることも大切です。

左心不全が心配な方へ

左心不全は早期発見と適切な治療が予後を大きく改善する病態です。「少し息切れがする程度だから大丈夫」と放置せず、気になる症状がある方はぜひ循環器内科への受診をご検討ください。

クリニックプラスの循環器専門外来では循環器内科の専門医が心エコー検査を含めた各種検査をその場で実施し、結果を即日お伝えすることが可能です。LINEからの24時間予約に対応しており、平日は夜20時まで、土日祝も毎日診察しています。大学病院や総合病院との連携体制も万全ですので、安心してご相談ください。

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