RSウイルス感染症(Respiratory Syncytial Virus)は、こどもに多い感染症ですが、こどもや孫からうつって大人が感染することも少なくありません。
今回は、大人のRSウイルス感染症の原因や症状について解説します。
大人が感染してもほとんどの場合、軽い風邪症状にとどまりますが、高齢者や基礎疾患のある方は重症化しやすい傾向にあるため、注意する必要があります。
RSウイルスとは
RSウイルスは、ニューモウイルス科オルソニューモウイルス属に属しているウイルスです。
よく耳にするヒトメタニューモウイルス感染症の原因となるヒトメタニューモウイルスも、ニューモウイルス科に属していますが、RSウイルスとは別のウイルスです。
RSウイルスは、2歳までにほとんどのこどもが感染するといわれています。
何回も感染を繰り返し、大人になってもRSウイルスに感染します。
はじめてRSウイルスに感染した赤ちゃんは重症化しやすいので、特に注意が必要です。
子どものRSウイルス感染症や大人のRSウイルス感染症については、以下の記事で解説しています。
小児で重症化しやすいRSウイルス感染症
RSウイルスは、特に秋から冬に流行しますが、1年を通して感染する可能性があり、日頃から基本的な感染予防を怠らないことが大切です。
大人のRSウイルス感染症の原因
RSウイルスは、保育園や幼稚園などのこどもの集団生活の場面で感染が広がりやすい傾向があります。
会話や咳・くしゃみなどを介する飛沫感染(ひまつかんせん)と、口に入れたおもちゃの共有などによる接触感染(せっしょくかんせん)の両方で感染が広がります。
年齢が低いと感染を防ぐことが難しいため、感染が広がりやすくなります。
大人の場合の感染経路は?
大人の主な感染経路は、家庭内での感染です。
RSウイルスに感染したこどもと一緒に暮らす親や、面倒を見る機会のある祖父母は接触の機会が多く、感染しやすくなります。
また、高齢者施設なども感染が広がりやすい傾向にあります。
集団生活の場では感染予防を徹底しにくいので、個人で日頃から予防しておく必要があります。
大人のRSウイルス感染症の症状
大人がRSウイルスに感染した場合の症状について確認していきましょう。
ほとんどは軽い風邪症状
大人がRSウイルスに感染した場合、鼻水・くしゃみ・発熱・のどの痛みなどの症状にとどまることが多いため、ただの風邪と思われることも少なくありません。
何度も感染を繰り返しているうちに症状も軽くなり、RSウイルスに感染していることに気づかないままでいることも多いでしょう。
高齢者は重症化しやすい
風邪症状と思われることが多い大人のRSウイルス感染症ですが、高齢者や基礎疾患のある方は注意が必要です。
加齢や病気が原因で免疫機能が低下していると、RSウイルスに感染した時に重症化のリスクが高くなります。
重症化すると、気管支炎や肺炎を起こし、入院して酸素吸入を受けたり点滴で栄養や水分を補ったりするなどの、全身管理が必要になる場合があります。
RSウイルス感染症の検査
RSウイルスに感染しているかどうかを調べるためには、主に3つの検査方法があります。
- 迅速診断(じんそくしんだん)キット
- PCR法
- ペア血清による抗体値の変化の確認
大人とこどもでは検査方法が異なる
こどもの場合、採取した鼻咽腔(びいんくう)ぬぐい液を用いて迅速診断キットで検査すると、15分程度で診断できます。
迅速診断キットは、原則1歳未満のこどもで保険が適用されます。
重症化しやすい赤ちゃんの場合、早期にRSウイルスと診断し、入院して経過を観察する必要があるかどうかを判断しなければならないからです。
大人の場合は、迅速診断キットの使用は保険が適用されません。
PCR法による検査は費用が高額であり、検査機器も必要であることからあまり行われません。
ペア血清を使って検査する方法は、初期と回復期で2回採血する必要があり、かなりの時間がかかります。
大人がRSウイルス感染症にかかった場合、効果的な治療方法がないため確定診断をする必要がなく、通常の診療で検査することはほとんどありません。
RSウイルス感染症の治療
RSウイルス感染症には、効果的な治療方法がないため、症状を緩和するための対処療法が中心となります。
咳止めや解熱剤の使用、呼吸困難時の酸素吸入、食欲不振や水分摂取困難時の点滴など、必要に応じた治療を行います。
出勤停止になるのか?
RSウイルスに感染したからといって「何日間の出勤停止」というような決まりはありません。
基本的には、RSウイルスの感染を広げないためにも安静にして過ごし、症状が治まったら出勤するようにしましょう。
RSウイルス感染症の予防
RSウイルス感染症の予防として、2024年1月から60歳以上の人のみワクチン接種ができるようになりました。
これまでは基本的な感染対策が中心だった
RSウイルス感染症の予防において、これまでは基本的な感染対策が中心でした。
手洗い・うがい・マスクの着用、手指の消毒などをきちんと行い、感染を予防することが求められてきました。
60歳以上はワクチン接種が可能に
2024年1月に、RSウイルスワクチンである「アレックスビー」が発売され、医療機関で接種できるようになりました。
アレックスビーは60歳以上を接種対象者としており、人を対象とした試験では、RSウイルス感染症に対する効果は、60歳以上で82.2%、60歳以上の基礎疾患のある人では94.6%で効果が検証されました。
アレックスビーについては、以下の記事で解説しています。
当院でもアレックスビーの接種を行っていますので、気になる場合には医師に相談してください。
感冒で来院された方の当院での診療の流れ
①問診
いつからどの様な症状が出ているか、診断・治療に必要な情報を集めるために、医師がいくつか質問します。
(LINEの事前問診にお答えいただきますと、よりスムーズな診療を提供できますのでご協力ください)
RSウイルスは1歳以下のこどもでなければ重症化リスクはないとされていますが、高齢や心疾患・肺疾患、特にCOPD(慢性閉塞性肺疾患 まんせいへいそくせいはいしっかん)は重症化に関わる重要な要因です。
そのため既往歴や現在飲んでいる薬など詳しく聞かせて頂きます。
②身体診察
呼吸音の異常がないか、リンパが腫れていないかなど、医師が丁寧に診察を行います。
③検査
症状としては、通常の感冒に加えて酸素飽和度(SpO₂)の低下が見られた場合は、重症化を示唆する所見です。
RSウイルスの抗原検査は、1歳以上の患者さんは自費診療になりますが、ご希望があればご相談ください。
重症化を疑った場合はレントゲンを撮影します。
異常な陰影を認めた場合は、CT撮影や詳しい検査のために専門の病院をご紹介いたします。
④治療
基本は対症療法ですが、細菌感染の合併を認めた場合は抗生物質を処方します。
その他、喘息発作やCOPDの急性増悪が疑われた場合などは、ステロイド投与を検討します。
風邪症状と思われることが多い大人のRSウイルス感染症ですが、高齢者や基礎疾患のある方はRSウイルスに感染した時に、重症化する可能性もあるので注意が必要です。
ただの風邪で済ませずに、医療機関を受診して、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
クリニックプラスでは平日は20時まで、土日祝日も診療を行っております。お気軽にご相談にいらしてください。