コラム

潜在性甲状腺機能低下症

  • 甲状腺疾患

健康診断の血液検査で「TSHが高い」と指摘され、驚いた経験はないでしょうか。自覚症状がほとんどないにもかかわらず甲状腺の機能がわずかに低下している状態を、潜在性甲状腺機能低下症(せんざいせいこうじょうせんきのうていかしょう)といいます。「症状がないなら放っておいて大丈夫」と思われがちですが、長期間放置すると動脈硬化のリスクが高まったり、不妊の原因になったりすることがわかっています。ここでは、潜在性甲状腺機能低下症の原因・症状・検査・治療について詳しく解説します。

潜在性甲状腺機能低下症とは

潜在性甲状腺機能低下症は、一言でいうと「体に必要な甲状腺ホルモンがわずかに足りていない状態」です。甲状腺ホルモン(FT4)の数値自体は正常範囲内にあるものの、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけが基準値を超えて高くなっています。これは、下垂体が「甲状腺ホルモンがもう少し必要だ」と感じてTSHの分泌を増やしている状態です。甲状腺ホルモンが明らかに低下している「顕性甲状腺機能低下症」との違いは、FT4が正常範囲内であるかどうかという点にあります。

顕性甲状腺機能低下症との違い

潜在性顕性
TSH(甲状腺刺激ホルモン)高値高値
FT4(甲状腺ホルモン)正常低値
自覚症状ほぼなしあり(倦怠感、冷え、むくみ等)
治療の必要性条件により判断原則必要

潜在性甲状腺機能低下症の原因

最も多い原因は橋本病(慢性甲状腺炎)です。橋本病では免疫の異常により甲状腺に慢性的な炎症が起き、甲状腺の機能が徐々に低下します。その他に、ヨウ素の過剰摂取(海藻の食べ過ぎ、ヨウ素を含む薬剤・造影剤の使用)も原因となります。日本は海藻を多く摂取する食文化があるため、ヨウ素の過剰摂取が原因となるケースも他国と比べて多いと考えられています。

どのくらいの頻度で見られるの?

健康な方の4〜10%に認められるとされ、決して珍しい状態ではありません。女性に多く、年齢とともに頻度が上がります。高齢女性に限ると7〜17.5%に見られるという報告もあります。

潜在性甲状腺機能低下症の症状

潜在性甲状腺機能低下症では、ほとんどの場合自覚症状がありません。健康診断や人間ドックの血液検査で偶然発見されるケースが大半です。ただし、TSHの高値が長期間続くと、倦怠感やコレステロール値の上昇、記憶力の低下などが現れる可能性があります。また、軽度の便秘や皮膚の乾燥を感じている方もいますが、日常生活への支障が少ないため見過ごされがちです。

潜在性甲状腺機能低下症の検査・診断

診断は血液検査で行います。TSHが基準値を超えて高く、FT4が正常範囲内であれば潜在性甲状腺機能低下症が疑われます。一時的な変動の可能性を除外するため、1〜3か月後に再検査を行い、持続的にTSHが高いことを確認します。

橋本病が背景にあるかどうかを調べるために、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体の測定も行います。これらの自己抗体が陽性であれば、将来的に顕性甲状腺機能低下症に進行する可能性が高いとされており、より慎重な経過観察が必要になります。

潜在性甲状腺機能低下症の治療

治療が必要な場合

再検査でもTSHが高値を示した場合、以下の基準をもとに治療の要否を判断します。

対象治療方針
TSH 10µU/mL以上動脈硬化の進行リスクがあるため治療を開始
TSH 10µU/mL未満原則経過観察。ただし以下の場合は治療を検討
妊娠中・妊娠希望の方TSH値にかかわらず治療を開始(目標TSH 2.5µU/mL以下)
高コレステロール血症あり治療により脂質改善が期待できるため治療を検討
85歳以上の高齢者加齢によるTSH上昇のため通常は治療不要

治療薬について

治療にはレボチロキシン(チラージン)を使用し、不足している甲状腺ホルモンを補います。体内で産生される甲状腺ホルモンと同じ成分のため、適切な用量を服用していれば副作用の心配はほとんどありません。少量から始め、血液検査の結果を見ながら用量を調整していきます。服用は原則として朝の空腹時に行い、食事や他の薬との間隔を30分〜1時間程度あけるのが効果的です。

放置するとどうなるの?

自覚症状がないため放置しがちですが、TSHが10µU/mLを超える状態が長く続くと以下のリスクが報告されています。

  • 動脈硬化の進行、心血管疾患のリスク上昇
  • 記憶力・認知機能の低下
  • 脂質異常症(LDLコレステロールの上昇)
  • 不妊・流産のリスク上昇

すぐに治療を開始しない場合でも、半年に1度は血液検査を行い、TSHの推移を確認しておくことが望ましいとされています。自己抗体が陽性の方は、年に4〜5%の割合で顕性甲状腺機能低下症に移行するともいわれており、定期的な経過観察が欠かせません。

潜在性甲状腺機能低下症と妊娠

甲状腺ホルモンは胎児の発育に欠かせないホルモンです。潜在性甲状腺機能低下症があると排卵障害による不妊や流産のリスクが上がることがわかっています。妊娠を希望される方や妊娠中の方は、TSH値が2.5µU/mL以下になるようレボチロキシンで治療を行います。胎児への薬の影響はないと考えられており、安心して治療を続けることができます。妊娠中のきめ細やかな管理が必要なため、甲状腺専門の医療機関の受診もおすすめです。

潜在性甲状腺機能低下症が気になる方へ

健康診断でTSHの高値を指摘された方、倦怠感が続く方、生活習慣に気をつけているのにコレステロールが高い方、妊娠を希望されている方は、一度甲状腺の精密検査を受けてみてください。

クリニックプラスでは甲状腺に関する血液検査を行い、潜在性甲状腺機能低下症の診断から投薬治療までをサポートしています。平日は夜20時まで、土日祝も毎日診察を行っておりますので、お仕事帰りや休日でも受診しやすい環境です。ご予約はLINEから24時間いつでも可能です。TSHの値が気になる方は、まずはお気軽にご来院ください。

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