22年の肺がんの死亡数は、男性が約5.4万人で1位、女性が約2.3万人で2位となっています。
部位別でみると、死亡数の最も多いがんであることがわかります。
肺がんは、他の呼吸器系の病気と共通の症状が見られ、特有の初期症状はなく、検診ではじめて見つかることも少なくありません。
ここでは、肺がんの症状から治療や予防について解説します。
肺がんとは
肺がんは、気管支などを含む肺の細胞ががん化したものです。
がんの中で最も死亡数が多く、治療が難しいがんの1つといわれています。
肺のしくみ
肺は、肋骨(ろっこつ)に囲まれた中にあり、心臓を挟んで左右に分かれています。
さらに、右の肺は3つ(上葉・中葉・下葉)、左の肺は2つ(上葉・下葉)に分かれています。
口や鼻から入った空気は、気管から気管支を通って肺の中に入ります。
そこからさらに気管支の先端にある肺胞(はいほう)まで空気が届けられ、そこで空気中から酸素を体に取り込み、不要となった二酸化炭素を体の外へ排出しています。
肺がんの種類
肺がんには「腺(せん)がん」「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」「大細胞がん」「小細胞がん」の4種類があります。
腺がんが最も多く、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんの順に続きます。
この4つは、肺がんの組織型で分類されています。
組織型というのは、顕微鏡で見たときのがん細胞の見え方の違いのことです。
また肺がんは、小細胞がんかそれ以外のがんかによって治療方法が違ってくるため、小細胞がん以外の、腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんをまとめて「非小細胞がん」と呼ぶこともあります。
肺がんの種類ごとに、肺のどの部分に発生しやすいかもわかっています。
肺門部(はいもんぶ)という肺の入口近くには、扁平上皮がんの発生が多く、その他の部分では腺がんの発生が多く見られます。
腺がんは、肺の奥の方に発生しやすいため、初期に症状がでにくい傾向があります。突然血痰がでていることに気付き、急いで医師の診察を受け検査すると、かなり進行していたという場合もあります。
このように、肺がんの種類によって、できやすい場所や進行の速さなどに特徴があります。
肺がんのステージ
肺がんは、I期(ステージ1)・II期(ステージ2)・III期(ステージ3)・IV期(ステージ4)の4つのステージに分けられています。IV期が最もステージが進み、がんが進行している状態です。
ステージは、腫瘍の大きさやリンパ節や他の臓器への転移などから決まり、それによって治療方法や今後の見通しが立てられます。
- I期(ステージ1)…がんはまだ小さく、リンパ節や他の臓器に転移していません。
- II期(ステージ2)…がんが大きくなっているがリンパ節への転移していない、またはがんと同じ側の肺のリンパ節に転移が見られる状態です。
- III期(ステージ3)…がんが肺の中にとどまっているが同じ側の肺の離れたところにがんが発生している、またはがんが肺の周りの臓器に広がりリンパ節にも転移している状態です。
- IV期(ステージ4)…がんが離れた臓器に転移している、または反対側の肺の中にがんが発生している状態です。
肺がんの原因
肺がんの最大のリスク因子は「喫煙」です。
タバコを吸っている人だけでなく受動喫煙した人も、肺がんのリスクが上昇します。
そのほかに、大気汚染やアスベストの吸い込みなども肺がんの原因になることが報告されています。
肺がんの症状
肺がんの初期症状は、肺炎のような他の呼吸器系の病気と似ている部分があり、自分ではなかなか判別が難しいでしょう。
- 咳
- 痰、血の混ざった痰(血痰)
- 声がれ(嗄声 させい)
- 胸の痛み
- 倦怠感(けんたいかん)
- 持続する発熱
- 動作時の息苦しさや動悸(どうき)
肺がん特有の初期症状はなく、症状をほとんど感じない人もいるため、検診や人間ドックなどではじめて見つかることも少なくありません。
がんが進行し他の臓器に転移すると、次第にがんによる内臓の痛みや頭痛なども出てきます。
IV期(ステージ4)で見つかることもあり、血痰や嗄声が見られる場合は肺がんかもしれないと思って、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
肺がんの治療
肺がんの治療は、手術・放射線治療・薬物療法の3つです。
単独で治療する場合もありますが、この3つを組み合わせて治療する方法もあります。
手術
手術は、肺がんのI期(ステージ1)から一部のIII期(ステージ3)までで行われます。
I期(ステージ1)では、手術に耐えられる体力がない場合を除き、優先的に手術が行われます。
II期(ステージ2)では、手術後に抗がん剤を使用する場合もあります。
III期(ステージ3)では、手術でがんを取り除いたあとに、再発を予防するために抗がん剤を使用します。
手術後は肺活量が低下し肺炎などの合併症を起こしやすくなるので、呼吸リハビリテーションを行う医療機関もあります。
少しでも呼吸が楽になるように、呼吸訓練や日常生活動作の工夫の習得を行っています。
放射線治療
放射線治療は、がんのある部分に放射線を当ててがん細胞を攻撃する治療法で、全ステージで行われます。
I期(ステージ1)やII期(ステージ2)では、手術に耐えられる体力がないと考えられる場合に放射線治療を行いますが、III期(ステージ3)では、がんが広がっていて、手術ができない場合にも選択されます。
IV期(ステージ4)では、主に症状の緩和を目的として行うことがあります。
薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤)
肺がんの薬物療法では、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤を使用します。
抗がん剤は、細胞が増える過程に作用することで、細胞が増えるのを抑えて攻撃します。
がん細胞は、正常な細胞に比べて細胞が増えていくスピードが速いので、がん細胞の攻撃に効果がありますが、一方で正常な細胞にも攻撃してしまうので、脱毛・口内炎・下痢などの副作用が出やすくなります。
分子標的薬は、がん細胞にある特殊なタンパク質などを標的として、がん細胞を攻撃します。
抗がん剤と違って、がん細胞だけを狙って攻撃するので、副作用が抑えられます。
遺伝子検査を行い、がん遺伝子に異常がある場合に使います。
がん細胞は、免疫によって細胞が攻撃されるのを防ぐ仕組みをもっています。
免疫チェックポイント阻害剤はその仕組みを解除して、本来の免疫の力でがん細胞を攻撃しようとします。
この薬は、正常な細胞に対しても免疫が働きすぎてしまうので、副作用として、皮疹などの皮膚障害、肺炎などの肺障害、下痢・腸炎などの胃腸障害、神経障害、甲状腺機能低下症などが起きる場合があり、注意しなければなりません。
肺がんの予防
肺がんは、以前に比べると5年生存率も上がってきましたが、まだまだ死亡数の多いがんの1つです。
肺がんにかからないように、予防を心がけましょう。
禁煙
喫煙したからといって必ず肺がんになるわけではありませんが、喫煙は肺がんの最大のリスク因子です。
禁煙することで、自分も周りの人も守られるので、肺がんの予防のために禁煙しましょう。
肺がん検診で初期の肺がんも発見できる可能性があります
肺がん検診を受け、できるだけ早い段階で発見して治療することで、肺がんによって亡くなることを防げるかもしれません。
定期的に検診を受けるようにしましょう。
肺がんの疑いで来院された方の、当院での診療の流れ
①問診
いつからどの様な症状が出ているか、診断・治療に必要な情報を集めるために、医師がいくつか質問します。
(LINEの事前問診にお答えいただきますと、よりスムーズな診療を提供できますのでご協力ください)
特に、喫煙歴とがんの家系かどうかは重要なポイントです。
症状としては発熱・呼吸困難・咳嗽などが肺がんを疑う兆候ですが、初期のがんは症状がないほうが普通です。
②身体診察
呼吸音の異常がないか、リンパが腫れていないかなど、医師が丁寧に診察を行います。
③検査
肺がんを疑った場合は、まずはレントゲンを撮影します。
異常な陰影を認めた場合は、CT撮影や詳しい検査のために専門の医療機関をご紹介いたします。
肺がんには、特有の初期症状はなく、進行してはじめて症状に気づくことがあります。
肺炎などの他の呼吸器系の病気と症状が似ているため、自分で判別するのは難しいでしょう。
気になる症状がある場合は、まずは医師の診察を受けるようにしましょう。