高熱のときに熱を下げたり、頭痛や歯痛などの痛みをとったりするために解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)と呼ばれる薬がよく使われます。しかし、解熱鎮痛薬によっては、その成分に反応して喘息発作が引き起こされることがあり、そのような喘息を「アスピリン喘息」といいます。アスピリン喘息の症状は重症化しやすく、対処が遅れると命に関わる危険性もあります。ここではアスピリン喘息の特徴や症状、日常の中での注意点について詳しく解説します。
アスピリン喘息ってどんな病気?
アスピリン喘息とはどのような喘息なのでしょうか。まず初めに、アスピリン喘息の特徴について解説します。
アスピリン喘息とは
喘息はアレルギー反応が深く関与して起こる病気です。アレルギーを引き起こす物質には、ハウスダストや花粉、タバコの煙などさまざまなものがありますが、薬剤がアレルギーを引き起こすこともあります。薬剤による喘息の中でも、アスピリンや類似の成分が原因で起こる「アスピリン喘息」は特に重症化しやすく注意が必要です。アスピリン喘息の患者さんは、全ての喘息患者さんの約10%に見られ、そのほとんどは成人の方です。
アスピリンってどんな成分?どんな薬に入っているの?
高熱が出たときに熱を下げたり、頭痛や歯痛などの痛みをやわらげたりする目的で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)という薬がよく使われます。アスピリンはこの非ステロイド性抗炎症薬の1つです。非ステロイド性抗炎症薬は医療機関で処方されるだけでなく、ドラッグストアでも簡単に手に入りますし、市販の風邪薬の中にもアスピリンや類似の成分が含まれていることがあります。例えば市販でも売られているバファリンにはアスピリンが含まれています。
非ステロイド性抗炎症薬は有用な薬ですが、アスピリン喘息という重症の喘息を引き起こす可能性があることに注意が必要です。
アスピリンにだけ注意すればいいの?
アスピリン喘息の患者さんは、アスピリンだけでなく、あらゆる種類の解熱鎮痛薬で強い喘息発作を起こす危険性があります。全ての解熱鎮痛薬に注意が必要です。アスピリン以外の代表的な非ステロイド性抗炎症薬として、ロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)、ジクロフェナク(商品名:ボルタレン)、イブプロフェン(商品名:ブルフェン)などが挙げられます。
アスピリン喘息は治りますか?
非ステロイド性抗炎症薬に対するアレルギー体質は、基本的に治ることはないとされています。1度でもアスピリン喘息を起こしたことのある方は、解熱鎮痛薬や風邪薬を使用する場合には必ず医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
アスピリン喘息を起こしやすいのはどんな人ですか?
次のような方はアスピリン喘息を起こすリスクが高いとされているため、薬を服用する際には注意が必要です。
・成人してから喘息を発症した方
・発作を頻繁に起こしている重症喘息の方
・鼻の中のポリープを合併している喘息の方
アスピリン喘息の症状と診断
非ステロイド性抗炎症薬を服用後1時間以内に次のような症状が起こった場合、アスピリン喘息を疑います。
・強い鼻詰まり、鼻水
・強い喘息発作や咳
・顔面の紅潮、目の充血
・ときに腹痛、下痢、吐き気などの消化器症状
鼻詰まりや鼻水から症状が始まるケースが多いとされています。
アスピリン喘息の治療
アスピリン喘息はどのように治療するのでしょうか。ここでは急性期と慢性期それぞれの治療法について解説します。
急性期の治療
アスピリン喘息は急速に症状が悪化するため、迅速な対応が必要です。発作症状が出ている急性期には、次のような対応をします。重症の発作の場合は速やかに救命救急施設へ搬送することが必要です。
・十分な酸素投与
・アドレナリンの筋肉内注射
・ステロイド+アミノフィリンを点滴で投与する
・抗ヒスタミン薬を点滴で投与する
・内服ができる状態であれば抗ロイコトリエン薬を内服する
対処が遅れるとときに命に関わる危険性がありますが、適切な対処がなされ、最初の数時間を乗り越えることができれば発作症状は改善していきます。
慢性期の治療
長期的なコントロール方法は通常の喘息と同じで、吸入ステロイド薬の吸入や、抗ロイコトリエン薬の内服を毎日継続することで、気道の状態を安定させ、発作が起こらないように管理していきます。
アスピリン喘息患者さんに熱や痛みがある場合の対処法
アスピリン喘息の患者さんは非ステロイド性抗炎症薬の使用を徹底して避ける必要があります。カロナールなどのアセトアミノフェン、セレコックスなどの塩基性の抗炎症薬であればほぼ安全に使えるため、熱や痛みがある場合にはこれらの薬の使用を検討します。風邪薬であれば、医療機関でよく処方されるPL顆粒が使用できます。ただし、使用したことのない薬を使う場合は医師や薬剤師に確認するようにしましょう。
アスピリン喘息の患者さんの日常生活での注意点
アスピリン喘息の患者さんはミントや練り歯磨き、香辛料や食品添加物に反応して喘息発作を起こすこともあります。普段から薬剤や食品の成分表示に注意することが必要です。少しでも気になることがある場合には、必ず主治医に相談をするようにしましょう。
アスピリン喘息で来院された方の当院での診療の流れ
① 問診
症状や経過について詳しくお話しを聞きます。アスピリン喘息を疑う際には、内服した薬の種類が診断のカギになります。(LINEの事前問診にお答えいただきますと、よりスムーズな診療を提供できますので、ご協力ください。)
②身体診察
呼吸の音に異常はないかなど、医師が丁寧に診察を行います。「ゼーゼー」「ヒューヒュー」の喘鳴が著明で、血中酸素飽和度が低下しているような場合には、救命処置にうつります。
③アドレナリンの筋肉注射と救急搬送
病歴と症状からアスピリン喘息が強く疑われ、重症発作を起こしている場合にはアドレナリンの筋肉注射を行います。また、当院では酸素管理や入院管理ができませんので、速やかに救命救急施設への搬送を行います。
④処方(症状が安定している場合)
症状が比較的安定している場合には、吸入薬や内服薬を処方します。原因となりうる非ステロイド性抗炎症薬の内服は必ず回避するように指導いたします。
もともと喘息をお持ちの方は、解熱鎮痛薬の内服には注意が必要です。対応が遅くなると重症発作につながりかねませんので、疑わしいと思ったらすぐに医療機関を受診するようにしましょう。クリニックプラスは、平日は夜の8時まで、土日祝も営業しております。お気軽にご相談にいらしてください。