甲状腺疾患(こうじょうせんしっかん)は、甲状腺ホルモンが、体が必要とする量より多くなってしまったり、逆に少なくなってしまったりすることによって、さまざまな症状が現れる病気です。その症状は更年期障害やうつ病など他の病気と間違われやすく、甲状腺疾患だと分かるまでに時間がかかってしまうことも多く見られます。少しでも早く適切な治療を始められるよう、甲状腺疾患の症状や原因、治療について解説していきます。
甲状腺とは
甲状腺は、のどぼとけの下にある臓器で、成人で重さが15〜20g程度、大きさが4〜5cm程度で蝶(ちょう)が羽を広げたような形をしています。甲状腺の病気になると腫れることもあり、首が太くなったように見えることがあります。甲状腺では甲状腺ホルモンが作られています。甲状腺ホルモンには、心拍の速さや体温、自律神経の働きを調整し、エネルギーの代謝を一定に保っています。また、子どもの発達や成長を調節する作用があります。血液中の甲状腺ホルモンが多すぎたり少なすぎたりしないように、下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています。
甲状腺疾患とは
まず初めに、甲状腺疾患とはどのような病気なのかについて解説します。
甲状腺疾患は大きく2つに分けられる
甲状腺疾患は、甲状腺ホルモンが増えすぎてしまう事による甲状腺中毒症(こうじょうせんちゅうどくしょう)と、逆に甲状腺ホルモンが少なくなる甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)の、大きく2つに分けられます。
甲状腺中毒症とは
甲状腺ホルモンが増えすぎることにより、ホルモンの作用が過剰に見られる状態で、頻脈、体重減少、手指の震え、発汗増加、倦怠感、下痢などの症状が見られます。原因には、バセドウ病や機能性甲状腺結節、TSH産生下垂体腺種のように持続的に甲状腺ホルモンが産生分泌される甲状腺機能亢進症と甲状腺の炎症により甲状腺組織が破壊され甲状腺ホルモンが血中にもれ出てしまう破壊性甲状腺炎(亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎)があります。
①甲状腺ホルモンが多く作られすぎてしまう甲状腺疾患
甲状腺機能亢進症の原因として最も多いのがバセドウ病です。自身の甲状腺を刺激する自己抗体(こうたい)ができることで、自分の甲状腺を刺激してしまい、甲状腺ホルモンが必要以上に多く作られ、甲状腺中毒症状を引き起こす自己免疫疾患です。20歳〜50歳代の女性に多く見られ、男女比は男性1人に対し女性5〜6人程度です。
・機能性甲状腺結節(きのうせいこうじょうせんけっせつ)
甲状腺にできたしこりが自律的に甲状腺ホルモンを過剰に作ってしまう病気です。ほとんどが良性腫瘍で、しこりの切除やアイソトープ治療を行います。手術やアイソトープ治療を望まれない場合は抗甲状腺薬の服用で治療は可能ですが、完治は困難です。
・TSH産生下垂体腺腫(TSHさんせいかすいたいせんしゅ)
脳の下垂体と呼ばれる部位にできた腫瘍から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が過剰に作られ、その結果、甲状腺がホルモンを作りすぎてしまう病気です。治療は手術療法で、位置や大きさから経鼻的蝶形骨下垂体手術または開頭手術のどちらかが選択されます。
②甲状腺が壊れてホルモンが血液にもれ出てしまう甲状腺疾患
甲状腺に炎症が起き、甲状腺の組織が壊れることで、中にあった甲状腺ホルモンが血液の中にもれ出てきてしまい、甲状腺中毒症と呼ばれる症状が起こる病気です。首の腫れや痛み、発熱をともないますが、ほとんどの場合、症状は数か月ほどで自然におさまります。源因はまだ明らかになっていませんが、風邪症状に続いて起こることが多く、ウィルス感染が関係していると考えられています。
・無痛性甲状腺炎 出産や薬剤が誘引となり甲状腺の組織が壊れ、甲状腺ホルモンが血液の中にもれ出てくることで、甲状腺中毒症の症状が出る病気です。ほとんどの場合、症状は一時的で自然におさまります。亜急性甲状腺炎と違って痛みや発熱をともなわないため、無痛性甲状腺炎と呼ばれます。
甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症では、体が必要とする量の甲状腺ホルモンを作り出せないため、さまざまな症状が現れます。
甲状腺機能低下症の原因として最も多いのが橋本病です。橋本病は、甲状腺を障害する自己抗体がつくられることにより、抗体が甲状腺に作用し慢性的に炎症が起きる病気で、慢性甲状腺炎(まんせいこうじょうせんえん)とも呼ばれます。炎症によって甲状腺の働きが弱まり、体が必要とする量の甲状腺ホルモンを作り出せなくなる病気です。甲状腺疾患の中でも特に女性に多い病気で、30歳〜40歳代が多く、男女比は男性1人に対し女性20〜30人程度です。また、甲状腺ホルモンの値はほぼ正常でも、甲状腺刺激ホルモンの値だけが高くなっているような場合もあり、潜在性甲状腺機能低下症という状態の方もいます。
甲状腺疾患の症状とは
甲状中毒症(甲状腺機能亢進症・破壊性甲状腺炎)の症状
甲状腺ホルモンが増えすぎると、以下のようなさまざまな症状が出ます。
・甲状腺の腫れ、首が太くなる
・胸がドキドキする
・体がほてる、暑がりになる
・汗が多くなる
・イライラする
・手足の震え
・食欲が亢進し、食事量が増えているのに体重が減る
・疲労感
・月経不順・無月経
・便の回数が増える、便がゆるくなる
・眼球の突出
・筋力の低下
・炭水化物の多い食事をした後や運動後に突然手足が動かなくなる(周期性四肢麻痺)
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症では次のような症状が現れます。
・甲状腺の腫れ、首が太くなる
・体の冷え
・便秘
・むくみ
・脈が遅くなる
・体重が増える
・筋肉がつる
・眠気
・疲労感
・皮膚がカサカサ
・物忘れが多い
・うつ状態
・無気力
・アキレス腱反射の低下
・脱毛(頭髪、眉毛)
・かすれ声
・筋力の低下
・月経不順・過多月経
甲状腺疾患の検査は?どうやって診断する?
甲状腺機能疾患が疑われる場合には、視診や触診に加えて、以下のような検査を実施して診断します。
・採血検査
・心電図検査
・甲状腺エコー
甲状腺疾患はどうやって治療する?
治療法には大きく分けて次の3つの方法があります。
①薬物療法
多くの場合、最初は薬を使った治療から始めます。バセドウ病には、チアマゾールやプロピルチオウラシルなど、抗甲状腺薬といわれる薬を飲んで、甲状腺ホルモンが作られる量を減らします。副作用で継続が難しいと判断された場合には、他の治療を検討します。
潜在性甲状腺機能低下症の場合は、採血で一過性でない事を確認し、ホルモンの値によっては薬物治療をすることもあります。
破壊性甲状腺腫のように数か月経過で改善する可能性のある場合は、発熱や疼痛、頻脈に対し対症療法を行うこともあります。
一方、甲状腺機能低下症(橋本病)では、レボチロキシンという薬を飲み、不足している甲状腺ホルモンを補充して治療します。
②アイトソープ治療(放射線ヨウ素治療)
バセドウ病では、内服薬が副作用で使用できない場合や、内服薬で甲状腺のコントロールがつきにくい場合にアイソトープ治療(放射性ヨウ素治療)を検討します。ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料であり、体内に摂取されると甲状腺内に取り込まれ甲状腺ホルモンの合成に使用される事を利用した治療法です。放射性ヨウ素が入ったカプセルを飲み、放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれ甲状腺ホルモンを作る細胞を少しずつ破壊していく治療法です。癌や白血病を誘発することはなく安全な治療法ですが、年齢制限や一時的な食事制限などがあり実施できる施設が限られています。当院ではこの治療は受けられませんが、必要と判断された場合には、治療を受けられる施設を速やかにご紹介いたします。
③甲状腺摘出術(こうじょうせんてきしゅつじゅつ)
甲状腺機能亢進症の治療法には、甲状腺亜全摘術、甲状腺全摘術などの外科的治療もあります。甲状腺を手術によって摘出する治療法です。他の治療法よりも治療効果が早期に得られ、手術翌日から抗甲状腺剤を中止することができ再発が少ないなどの利点がありますが、傷あとが残ること、手術に伴う合併症の可能性があること、甲状腺機能低下症になり生涯甲状腺ホルモンの内服を必要とするなどの欠点もあります。
甲状腺疾患がある方の妊娠、出産について
甲状腺疾患の患者さんは若い女性に多いため、治療しながらの妊娠、出産について気になる方も多いと思います。詳しくはバセドウ病と妊娠・橋本病と妊娠の項目をご覧ください。
甲状腺疾患が疑われた方の当院での診療の流れ(診察所要時間目安: 7〜10分)
1. 問診
まずいつからどの様な症状がでているかなど、診断・治療に必要な情報を集めるために、医師がいくつか質問します。(LINEの事前問診にお答えいただきますと、よりスムーズな診療を提供できますので、ご協力ください。)
2. 身体診察(視診、触診)
甲状腺の診察の他、その他の部位にも異常が出ていないか全身を丁寧に診察します。
3. 検査
医師が必要と判断した場合には、検査を行うこともあります。当院で行える検査は以下になります。
◆血液検査 →甲状腺ホルモンの値をチェックします
◆心電図検査 →心臓に異常をきたしていないかを判断します
◆超音波検査 →甲状腺の腫れがある場合、超音波検査で、形態に異常がないかをみます。
4. 処方あるいは専門医療機関へ紹介
甲状腺疾患と診断された場合、当院で行える治療は飲み薬の治療になります。ただし、重症の場合や、当院の検査では十分に判断がつかない様な場合、内服薬以外の治療が必要である場合には専門の医療機関にご紹介させていただくこともあります。
甲状腺疾患の症状は他の病気と間違われやすく、また、「何となくずっと体調が悪いけれど病院に行くほどではないかも」と放置してしまいがちです。甲状腺疾患の症状は適切な治療を行うことで改善します。気になる症状がある場合には、悩まず受診して検査を受けるようにしましょう。クリニックプラスでは、事前LINE問診や、事前クレカ決済システムなど、テクノロジーを活用することで待ち時間を少しでも短くする取り組みを行っています。また、平日は夜の8時まで、さらには土日祝日も毎日営業することで、通院しやすい体制を整えていますので、お気軽にご相談にいらしてください。