「潜在性甲状腺機能低下症」は甲状腺の機能がわずかに低下している状態で、自覚症状がなく、健康診断などで偶然見つかることがほとんどです。しかし、放置することで心血管疾患のリスクが高まったり、不妊の原因になったりすることが分かっています。治療をするべきかどうかは、きちんと検査を行い、総合的に判断することが必要になります。潜在性甲状腺機能低下症の特徴や治療について解説します。
潜在性甲状腺機能低下症(せんざいせいこうじょうせんきのうていかしょう)とは
まず初めに、潜在性甲状腺機能低下症の特徴や原因について解説します。
潜在性甲状腺機能低下症ってどんな状態?
潜在性甲状腺機能低下症は一言で言うと、「体に必要な甲状腺ホルモンの量がわずかに足りていない状態」です。
甲状腺ホルモンは、脳の下垂体(かすいたい)というところから分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺から分泌され、体の代謝を調節する働きをしています。潜在性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの値はほぼ正常なのですが、TSHの値だけが高くなっています。「甲状腺ホルモンがわずかに不足しているので、もう少し作った方がいい」と、下垂体が指令を送っているためです。
甲状腺ホルモンの値が明らかに低い場合は「甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)」として治療を行いますが、潜在性甲状腺機能低下症では必ずしも治療が必要とは限らず、その見極めも大切になります。
潜在性甲状腺機能低下症の原因は?
潜在性甲状腺機能低下症の原因のほとんどが橋本病です。その他、ヨードの摂り過ぎ(海藻の食べ過ぎ、ヨードを含む薬剤や造影剤の使用)も原因となります。
どれくらいの患者さんがいるの?
健康な人の4~10%に認められるといわれています。女性に多く、加齢とともに増加します。高齢の女性に限ると7~17.5%と高頻度に見られます。
潜在性甲状腺機能低下症の症状は?
ほとんどの場合、自覚症状はありません。人間ドッグなどの血液検査で偶然見つかる場合が多いです。
潜在性甲状腺機能低下症の治療法は?
TSHの上昇が一時的なものではないことを確認するため、1~3か月後に再検査を行います。再検査でTSHが10µU/mを超えている場合に治療対象となります。
治療にはレボチロキシン(販売名:チラージン)という薬を使い、甲状腺ホルモンを補います。この薬の成分は、体の中で作られる甲状腺ホルモンと同じですので、適切な量を飲んでいれば副作用の心配はありません。
潜在性甲状腺機能低下症は治療するべき?しないとどうなるの?
潜在性甲状腺機能低下症では自覚症状がありませんが、治療はするべきなのでしょうか。ここでは放置するリスクや、どんな場合に治療を検討するべきかについて解説します。
治療しないとどうなるの?
潜在性甲状腺機能低下症の人は、甲状腺ホルモンの数値は正常範囲内であっても、その人にとっての甲状腺ホルモン量としてはわずかに足りていません。この状態では体調は特に悪くはなりませんが、長期間放置してTSHの値が10µU/mを超える状態が続くと、動脈硬化が進んだり、記憶力や認知機能が悪くなったりするといわれています。また、不妊や流産との関連性が報告されています。
積極的に治療すべき人はどんな人?
再検査をしてもTSHの値が10µU/mを超える場合は、放置するリスクを考え、治療をした方が良いとされています。また、TSHの値が10µU/m未満であっても、妊娠中や妊娠希望の方の場合は治療を開始します。高コレステロール血症があったり、倦怠感などの症状があったりする場合も、TSHの値に関わらず治療を検討します。
すぐには治療を開始しない場合でも、半年に1度は受診をして経過を観察した方が安心です。
高齢者の場合
年齢とともにTSHの値は上がっていくことが分かっています。そのため、85歳以上の方の場合には治療は通常行いません。
潜在性甲状腺機能低下症と妊娠・出産
潜在性甲状腺機能低下症は、不妊や流産との関連性が報告されています。妊娠への影響や治療について解説します。
不妊との関連性、妊娠・出産への影響
甲状腺ホルモンは、妊娠やお腹の中の赤ちゃんの成長にも大事なホルモンです。潜在性甲状腺機能低下症があると、排卵障害によって妊娠しにくくなったり、流産の可能性が上がったりすることが報告されています。
妊娠希望の場合や妊娠中の治療について
妊娠前、妊娠中には、TSHの値を2.5µU/ml以下にすることを目標に、レボチロキシンを飲んで治療を行います。レボチロキシンによるお腹の中の赤ちゃんへの影響はないと考えられています。
こんな場合は甲状腺機能のチェックを
倦怠感が続く、生活習慣に気を付けているのにコレステロールが高い、というような場合や、妊娠を希望される方は、受診をして甲状腺の機能をチェックしておくと安心です。健康診断などでTSHの高さを指摘された場合も、放置せず一度主治医に相談しましょう。
潜在性甲状腺機能低下症と疑われた方のクリニックプラスでの診療の流れ
①問診
まず症状の有無など、診断・治療に必要な情報を集めるために、医師がいくつか質問します。健診や他院での検査結果などをお持ちの方は、データを拝見しますのでご持参ください。(LINEの事前問診にお答えいただきますと、よりスムーズな診療を提供できますので、ご協力ください。)
②身体診察
甲状腺の触診を行ったあと、その他の部位にも異常が出ていないか全身を丁寧に診察します。
③検査
医師が必要と判断した場合には、検査を行うこともあります。クリニックプラスで行える検査は以下になります。
・血液検査 →甲状腺ホルモンの値をチェックします。
④処方あるいは専門医療機関へ紹介
潜在性甲状腺機能低下症と診断され、医師が、治療が必要と判断した場合には、飲み薬の治療を行っていきます。クリニックプラスの検査では十分に判断がつかない様な場合には、専門の医療機関にご紹介させていただくこともあります。クリニックプラスは多くの大学病院や総合病院と連携をとっておりますので、速やかに紹介することが可能です。
潜在性甲状腺機能低下症は治療のタイミングの見極めが重要です。症状がある方はもちろん、症状の無い方も、潜在性甲状腺機能低下症が疑われた方は医療機関を受診するようにしましょう。クリニックプラスでは平日は夜の8時まで、さらには土日祝日も毎日営業しています。まずはお気軽に御相談にいらしてください。