中性脂肪(トリグリセライド)を下げる薬が必要になるのは、生活習慣の改善により中性脂肪の数値が改善できなかったときです。中性脂肪が高い状態を放置すると、脳や心臓などのさまざまな病気のリスクを高めます。
本記事では、中性脂肪を下げる薬が必要な状態をはじめとして、主な3つの薬の効果と副作用の詳細を解説します。「薬は一生飲み続けなくてはいけない?」など、中性脂肪を下げる薬に関する疑問についても解説しますので参考にしてください。
そもそも中性脂肪(トリグリセライド)を下げる薬が必要な状態とは?
中性脂肪を下げる薬が必要な状態は、脂質異常症(ししついじょうしょう)の一つである高トリグリセライド血症(血液中の中性脂肪が高い状態)を発症しているときです。中性脂肪の数値が下記のどちらかを超えると、高トリグリセライド血症と診断されます。
- 空腹時採血:150mg/dL以上
- 随時採血:175mg/dL以上
放置すると血管の壁に余分な脂が付着して、動脈硬化(どうみゃくこうか:血管の弾力性が失われている状態)が進行します。進行すると血管が詰まりやすい状態になり、脳梗塞(のうこうそく)や心筋梗塞(しんきんこうそく)などの合併症のリスクが高まります。
その他の合併症リスクは下記の通りです。
急性膵炎(きゅうせいすいえん) | 膵臓(すいぞう)に炎症が起きる病気。食後や飲酒後に背中やみぞおち付近に突然激しい痛みが生じる。 |
脂肪肝(しぼうかん) | 肝臓に多量に脂質が蓄積された状態。肝炎(かんえん)や肝硬変(かんこうへん)などの肝臓の病気を発症するリスクがある。 |
2型糖尿病 | 血糖値を下げるインスリンの分泌が少なくなったり、効き目が悪くなったりする。中性脂肪が高いとインスリンの効き目が悪くなる。 |
一般的に食事療法や運動療法で改善が見られなかった際に薬物療法を開始します。まずは医師の指導を受けながら食事療法と運動療法を始めることが大切です。
【一覧表】中性脂肪を下げる3つの薬
中性脂肪を下げる薬は下記の3つに大別できます。
一般名 | 効果 | 副作用 | |
フィブラート系薬 | ベザフィブラート、フェノフィブラート | 肝臓で中性脂肪が作られないようにする | 横紋筋融解症(おうもうきんゆうかいしょう)、胆石症(たんせきしょう) |
選択的PPARαモジュレーター | ペマフィブラート | 脂質の代謝を促す | 横紋筋融解症、肝機能障害、黄疸(おうだん) |
n-3系多価不飽和脂肪酸(えぬすりーけいたかふほうわしぼうさん) | オメガ-3脂肪酸エチル、イコサペント酸エチル | 肝臓で中性脂肪が作られないようにする | 消化器症状、出血傾向 |
日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版を参考にしながら、それぞれの薬の効果と副作用を詳しく解説します。
1.フィブラート系薬
フィブラート系薬は、中性脂肪が高いときに有効な薬の一つで、遺伝性の脂質異常症に有効です。
効果|肝臓で中性脂肪が作られないようにする
フィブラート系薬は下記の効果により中性脂肪を下げます。
- 肝臓で中性脂肪が作られるのを減らす
- 中性脂肪を分解する物質の生産を増やす
実際にベザフィブラートでは、30〜40%の中性脂肪低下が見られ、総コレステロールの減少も見られています。
他にも35〜45%の善玉コレステロールの増加効果が見られています。善玉コレステロールとは、血液中の余分なコレステロールを回収して肝臓に運ぶ役割をもつ脂質です。一般的に中性脂肪を下げることができれば、善玉コレステロールが増える傾向があります。
副作用|横紋筋融解症や胆石症のリスクがある
フィブラート系薬の主な副作用は下記の通りです。
副作用 | 詳細 | 症状 |
横紋筋融解症 | 骨を支える筋肉が壊れる | ・手足や肩、腰の筋肉の痛み・手足のしびれ・手足の力が入らない |
胆石症 | 胆のうや胆管に石ができる | ・みぞおちから右わき腹にかけた痛み・胸焼けや吐き気 |
横紋筋融解症は、ベザフィブラートやフェノフィブラートで見られており、腎臓の機能に障害がある人は発症しやすいです。特に同様の副作用が生じるスタチン(悪玉コレステロールを下げる薬)を内服している方は注意が必要です。
胆石症はフェノフィブラートで報告されており、胆のうに病気を持っている方は内服してはいけません。
2.選択的PPARαモジュレーター
選択的PPARαモジュレーターは、フィブラート系薬と同様に中性脂肪を下げる効果が強い薬です。
効果|脂質の代謝を促す
選択的PPARαモジュレーターは下記の効果により中性脂肪を下げます。
- 脂質を分解する遺伝子の発生を促す
- 中性脂肪を分解する物質がつくられるのを促し、かつ活性化させる
実際にペマフィブラートを使用すると43%の中性脂肪の低下効果が見られ、善玉コレステロールの上昇やコレステロールの低下効果もあります。
また、フェノフィブラートと比較して、肝臓や腎機能の低下リスクが低いです。そのため、肝臓や腎臓に障害がある方やスタチンによる治療を進めている方に対して、使いやすい薬と考えられています。
副作用|横紋筋融解症や肝機能障害のリスクがある
選択的PPARαモジュレーターの主な副作用は、横紋筋融解症の他に下記のようなものがあります。
副作用 | 詳細 | 症状 |
肝臓の機能障害 | 栄養の代謝や毒素の分解などに関係する肝臓が障害される | ・疲れやすさ・体のだるさ・力が入りにくい・吐き気や食欲の低下 |
黄疸 | 代謝産物であるビリルビン(黄色の色素)が排出されず体にたまる | ・肌や白目が黄色くなる・体にかゆみがでる |
腎臓に影響が少ない薬ですが、すでに腎臓の障害がある方は内服してはいけません。また、下記に該当している方も内服してはいけません。
- シクロスポリン(免疫を抑える薬)を使用している
- リファンピシン(細菌の増殖を抑制する薬)を使用している
- 胆石症を発症している
- 妊婦または妊娠している可能性がある
選択的PPARαモジュレーターは、重い副作用が出現するリスクが少ないとされていますが、上記に該当していないか確認していないか注意してください。
3.n-3系多価不飽和脂肪酸
n-3系多価不飽和脂肪酸は、特に総コレステロールと中性脂肪が高い脂質異常症の方に効果的とされています。
効果|肝臓で中性脂肪が作られないようにする
n-3系多価不飽和脂肪酸には、肝臓で中性脂肪が作られるのを抑える効果があります。他にも、下記のような効果があります。
- 善玉コレステロールの増やす
- 血液をサラサラにする
- 炎症を抑える
上記のような効果により、中性脂肪を下げるだけでなく動脈硬化の予防につながります。
n-3系多価不飽和脂肪酸のなかでも、中性脂肪を下げる効果が期待されるのは、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)です。
実際にスタチンを使用中の患者さんにEPAを追加した結果、心臓の血管の病気予防につながったという報告があります。他にも、脳卒中(のうそっちゅう)の再発予防にも効果があります。
副作用|下痢や出血しやすくなるリスクがある
n-3系多価不飽和脂肪酸の副作用は、基本的に軽度ですが下記のようなものが出現する可能性があります。
- 悪臭のする汗をかく
- 口臭が発生する
- 頭痛がする
- 胸やけや吐き気をもよおす
- 便がゆるくなる
- 血が固まりにくくなる
n-3系多価不飽和脂肪酸を投与しすぎると、心房細動(しんぼうさいどう:心房と呼ばれる心臓の一部がけいれんする病気)の発症リスクが高まるという報告もあるため注意が必要です。
中性脂肪とコレステロールを下げる薬
中性脂肪とコレステロールを下げる薬として、ニコチン酸誘導体があります。主な一般名は「ニコチン酸トコフェロール」「ニコモール」です。
効果|中性脂肪の代謝をよくする
ニコチン酸誘導体の主な効果は、脂質が肝臓に送られるのを抑えて、その結果コレステロールや中性脂肪を下げることです。
実際にニコチン酸誘導体を単体で投与している患者さんでは、約26%の中性脂肪の低下効果があるという報告があります。他にも、善玉コレステロールを増やす効果も期待できます。
出典:一般社団法人日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン
副作用|かゆみや顔の赤みが出現するリスクがある
ニコチン酸誘導体の主な副作用は体のかゆみや顔の赤みなどです。その他に下記のような副作用が出現する可能性があります。
副作用 | 詳細 | 症状 |
高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう) | 血液中の尿酸(体の老廃物)が高い状態。腎臓の障害や痛風(つうふう)、尿路結石(にょうろけっせき:尿の通り道に石ができる病気)など原因となる | 自覚症状はないが、痛風や尿路結石が引き起こされると強い痛みが生じる |
インスリン抵抗性の悪化 | 血糖値を下げるインスリンというホルモンの効き目が悪くなる | 血糖値が上昇しやすくなる |
インスリン抵抗性が悪化する可能性があるため、特に血糖値が高めの方や糖尿病の患者さんは慎重に使用しなければなりません。
中性脂肪を下げる薬に関する2つの疑問
ここでは、中性脂肪を下げる薬に関する下記の2つの疑問について解説します。
- 薬は一生飲み続けなくてはいけない?
- 痩せる効果があるって本当?
疑問を解決して適切な治療を進めましょう。
1.薬は一生飲み続けなくてはいけない?
中性脂肪を下げる薬を飲む必要性が発生するのは、運動療法や食事療法により中性脂肪値が改善されなかったときです。つまり、食生活の乱れや運動不足などを改善することで、適切な数値まで下げることができれば、薬を中止することもできます。
2.痩せる効果があるって本当?
中性脂肪を下げる薬であって、痩せる効果があるわけではありません。用量・用法を間違えると重大な副作用を引き起こすこともあります。中性脂肪を下げる薬は、医師の指示を守りながら使用しましょう。