高血圧症とは、血圧が継続的に高い状態が続く疾患のことです。高血圧症の治療は、一般的な降圧薬を使うのが基本で、漢方薬はそのサポートとして使います。ここでは、高血圧を中医学で考えるとどういうことか、体質別の高血圧に効く漢方薬などについて解説します。
高血圧とは?
高血圧症とは、最高血圧が140mmHg以上、または最低血圧が90mmHg以上、あるいはこの両方を満たすときに診断されます。放置したままだと、動脈硬化性疾患を発症して死亡リスクが高まります。
高血圧の治療
高血圧の治療は、食事療法や運動療法などの生活習慣の改善と一般的な降圧薬を使うのが基本です。漢方薬はあくまでそのサポートとして使います。
高血圧を中医学で考えると
漢方薬を使って高血圧を治療するときは、血圧を直接下げるのではなく、体全体を整えて高血圧にともなって起こる頭重感や耳鳴り、めまい、息切れといった随伴症状を改善します。
中医学では、自然界のあらゆるものは「木火土金水(もっかどごんすい)」の5つの要素から成り立つという、五行学説(ごぎょうがくせつ)を取り入れています。人もまた自然界の一部と考え、体の働きを五行説に適用して5つに分けたものが五臓(ごぞう)です。
五臓とは「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」のことですが、西洋医学の臓器とは違い、より広い機能を指しています。例えば、肝とは肝臓に自律神経系までを含む概念です。心身の健康を維持できているのは、五臓が協力しバランスを調えているからと考えます。
五臓のうち血圧に関係しているのは、主に心、肝、腎です。
心、肝、腎と血圧の関係を以下の表にまとめました。
働きと血圧との関係 | |
心 | 血液を流すポンプという役割。過労やストレスなどで負荷がかかると滞る「瘀血(おけつ)」を引き起こす。 |
肝 | 自律神経の働きのバランスを調整して、体全体の血液の流れも管理。目や神経の使いすぎや過労、寝不足、ストレスなどは肝を消耗させるので、血圧が高くなる。 |
腎 | 腎は泌尿器系臓器であるだけでなく、免疫や内分泌、生殖、脳などと関係している。腎機能が衰えると老化症状として、高血圧が起こりやすい。加齢にともなう高血圧は腎が影響していることが多い。 |
漢方薬は五臓の乱れを整えて高血圧治療をサポートします。
高血圧に効く漢方薬【体質別】
ここでは、高血圧に効く漢方薬を体質別に紹介します。
1.肝火上炎(かんかじょうえん)
肝火上炎体質では、急にわいた怒りや長期間にわたるストレスで炎症が起こり血圧が高くなりやすいと言われています。怒りやいらいらなどのように感情が変化すると気の流れにつまりが出て、そこから熱が生れます。その熱が体の上半身をうっ血させ、血圧が上がります。
肝火上炎体質の方には、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが使われます。
2.陰虚陽亢(いんきょようこう)
陰虚陽亢体質では、体に必要な体液や血(陰血)が不足して相対的に熱が強い状態になるため、血圧が上がります。肝火上炎体質の長期化や、加齢による陰血不足によって熱がこもるようになり、血圧が上昇します。
陰虚陽亢の方に使うのは、釣藤散(ちょうとうさん)や七物降下湯(しちもつこうかとう)などです。
3.陰陽両虚(いんようりょうきょ)
陰液(血や水)の不足した状態を陰虚、陽気の不足した状態を陽虚と呼んでおり、陰陽両虚とは両方が不足した状態です。
体を温める陽気が不足し、また血も不足しているので、血液が血管内を巡らず、滞りが生まれやすい状態にもなっています。この体質では体の熱寒がとても不安定で、のぼせやすい反面、手足が冷えるといった熱と冷えが交ざった症状がよく出ると言われています。
陰陽両虚の方に使うのは、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などです。
高血圧に効く漢方薬のよくある質問
ここでは、高血圧に効く漢方薬の、よくある質問に回答します。
1.漢方薬と高血圧の薬は一緒に飲めますか?
甘草(かんぞう)という生薬が配合されている漢方薬は要注意です。甘草には抗アレルギー作用や解毒作用などいろいろな薬効があるので、昔から多くの漢方薬に使用されています。甘草の有効成分のグリチルリチンには、腎臓内のホルモン量を下げる働きがあり、その結果高血圧を引き起こす可能性があります。
適切な高血圧治療のために、服用している医薬品は漢方薬も含めて、正確に医師に言いましょう。
2.漢方で高血圧は治療できますか?
漢方薬は西洋薬に比べると降圧効果は緩やかです。しかし自律神経の乱れが原因だったり、肩こりやイライラなどの随伴症状が強かったりする場合に効果を期待できます。
3.更年期高血圧に効く漢方薬は何ですか?
同じ更年期高血圧といっても、他の症状が違うので、効く漢方薬は人によって違います。しかし、一般的には柴胡(さいこ)という生薬が入っている柴胡剤(さいこざい)が有効だと言われています。
漢方薬で血圧を下げたい場合は医師に相談しよう!
高血圧症は放置すると、動脈硬化性疾患を発症し命に関わることになる危険な疾患です。治療は一般的な降圧薬を使うのが基本で、漢方薬はあくまでそのサポートとして使います。そのため漢方薬で血圧を下げたい場合は、担当医に相談しましょう。