肥満の人は、そうでない人に比べると、高血圧を発症するリスクが約3倍と言われており、そのメカニズムにも特徴があります。ここでは、高血圧と肥満の関係、肥満を改善すると高血圧はどのくらい改善されるか、「肥満による高血圧」への対処方法などについて解説します。
高血圧と肥満の関係とは?
神戸大学が65歳の神戸市民約11,000人を対象に行った研究では、肥満が進行するほど、高血圧になる人が多く、その傾向は男性より女性で顕著であることが分かりました。
Obesity and risk for its comorbidities diabetes, hypertension, and dyslipidemia in Japanese individuals aged 65 years
肥満には「皮下脂肪型肥満」という皮膚の下に脂肪がつくタイプと「内臓脂肪型肥満」という内臓に脂肪がたまるタイプとの2つがあります。このうち高血圧と関係があるのは内臓脂肪型肥満です。内臓脂肪型肥満と見なされる境界は、ウエスト周囲値(へその位置)で男性では85cm以上、女性では90cm以上です。
肥満の人が高血圧を発症するリスクは、そうでない人の約3倍であると言われていますが、肥満の主な原因は、食べすぎと運動不足だと考えられます。
ここでは、高血圧と肥満の関係について、解説します。
食べ過ぎによる塩分量の増加
食べ過ぎると自然に塩分の摂取量も多くなり、血液中のナトリウム量も多くなります。ナトリウム量が増えると、濃度を薄めるために水分量が増加し、その結果、血管は圧迫され血圧は上がってしまいます。
動脈硬化の進行
内臓脂肪が多くなると、血液中にはLDLコレステロールや中性脂肪が増え、HDLコレステロールが少なくなりやすいので、動脈硬化のきっかけをつくってしまいます。動脈硬化が進行すると血管の柔軟性がなくなるので血圧はますます高くなります。また、内臓脂肪が多い状態を改善せず放置していると、将来的に高血圧や高血糖を引き起こし、動脈硬化を急に促進するようになります。
ホルモンの影響
肥満している人では以下の2つのホルモンが血圧を上げるように働きます。
インスリン
脂肪細胞が蓄積されると通常より多く分泌されるのが、インスリンです。インスリンはナトリウムの再吸収を促進しますが、それに伴い水分量が増加するので、血管が圧迫され血圧が上昇します。インスリンは交感神経系も刺激するので、血管収縮作用のあるカテコールアミンというホルモンも分泌されるようになります。
アンジオテンシノーゲン
アンジオテンシノーゲンも多く分泌されるようになります。肝臓や脂肪細胞で生成されるアンジオテンシノーゲンは、血圧上昇作用がある物質です。降圧薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシノーゲンが関係する経路を阻害して血圧を下げます。
肥満を改善すると高血圧はどのくらい改善する?
肥満を解消すると血圧が下がることは、さまざまな研究で報告されており、エビデンスは確立されています。例えば、高齢者の高血圧患者を対象に行われたTONE研究では、高齢高血圧患者では3.6 kg 以上減量すれば血圧改善効果が期待できると報告されています。また、近年の研究報告では、約4kg の減量では、収縮期血圧−4.5mmHg、拡張期血圧−3.2mmHg の血圧低下効果があると報告されています。
Sodium Reduction and Weight Loss in the Treatment of Hypertension in Older Persons
A Randomized Controlled Trial of Nonpharmacologic Interventions in the Elderly (TONE)
さらに、減量することで、降圧効果が得られるだけでなく、降圧薬を中止した後の心血管合併症を発症する人の割合や、降圧薬再開になる人の割合が約30%減少するとも報告されています。しかし、急に減量すると体に大きな負担をかける可能性もあるので、生活習慣の改善を目的に、無理なく進めることが重要です。肥満の場合にはBMI25 kg/m2 未満を目標にし、肥満でない場合にもBMI レベルを維持するようにしましょう。
厚生労働省|3 生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連
「肥満による高血圧」への対処方法
ここでは、通常の高血圧とは少し発症のメカニズムの異なる「肥満による高血圧」への対処方法について、解説します。
1.食事療法・運動療法
高血圧の治療では食事療法と運動療法が基本となります。体重の5~10%の軽めの減量を3~6か月ほどの期間をかけて、継続的にしましょう
食事では特に以下のことに注意します。
- 食塩を1日6g未満にする
- 野菜やきのこ類を取り入れる
低カロリーな野菜やきのこ類は、ダイエットにおすすめな食材です。これらの食材は豊富にカリウムを含むので、塩分が排泄しやすくなります。ただしカリウム制限のある腎臓病などの人が摂取する場合には医師と相談してください。
運動療法も肥満や高血圧の改善に役立ちます。ウォーキングや水泳などの有酸素運動はストレス解消にもなるので、継続的・定期的にするようにしましょう。
2.薬物療法
「肥満による高血圧」の薬物療法では、血圧が上がる原因に合わせて、神経やホルモンの働きを抑える薬が効果的とされています。代表的な薬としては、ARBやACE阻害薬、α1遮断薬、Ca拮抗薬などが挙げられます。特にARBやACE阻害薬は、肥満を伴う高血圧の患者さんに有効であることが、日本で4,728人を対象にした大規模な研究でも確認されています。
Effects of Candesartan Compared With Amlodipine in Hypertensive Patients With High Cardiovascular Risks: Candesartan Antihypertensive Survival Evaluation in Japan Trial
肥満を予防・改善して高血圧にならないようにしよう!
肥満だと高血圧になりやすく、動脈硬化性疾患になるリスクが高まります。肥満を解消すると降圧効果があるだけでなく、降圧薬を中止しても心血管合併症発症なども減少するとも報告されています。ただし、急に減量すると体に負担をかける可能性もあるので、3~6か月かけて体重の5~10%減量するようにしましょう。また肥満でない人もBMI レベルを維持するようにしましょう。