糖尿病患者さんは高血糖により高血圧を合併するリスクがあります。高血糖に高血圧が合併すると、動脈硬化(どうみゃくこうか:血管の弾力性が低下している状態)がさらに進行して、脳血管や心臓、腎臓の病気のリスクが高まるため注意が必要です。
本記事では、糖尿病患者さんが高血圧になりやすい理由や合併症のリスク、降圧目標、生活習慣の改善の重要性、降圧薬の開始の目安などを解説します。
糖尿病患者が高血圧になりやすい理由と関係性
糖尿病患者さんが高血圧を合併しやすい理由は、肥満やインスリン抵抗性(血糖値を下げるインスリンの効き目が悪くなること)、腎機能の低下、動脈硬化などが起きている場合が多いためです。詳細は以下の通りです。
【糖尿病患者さんが高血圧を合併しやすい理由】
肥満 | 肥満になると交感神経(こうかんしんけい:血圧や心拍数を上昇させる働きがある)が緊張して、血圧を高めるホルモンが多く出るため、高血圧になりやすい。 |
インスリン抵抗性 | インスリン抵抗性が起きると、より多くのインスリンが分泌され、血液中のインスリンが増える。血液中のインスリンが多い状態になると、交感神経が緊張して、血圧が上がりやすくなる。 |
腎機能の低下 | 腎臓の機能が低下すると、血液中のナトリウム濃度が高くなってしまい血圧が高くなる。 |
動脈硬化 | 血液中の糖の濃度が高いと、血液の流れが悪くなり動脈硬化が進行しやすくなる。その結果血圧が高くなる |
糖尿病患者が高血圧になると合併症リスクが高まる
血糖値が高いと血管がもろく硬くなります。その結果、動脈硬化と高血圧が進行して、脳血管や心臓の病気など、あらゆる糖尿病合併症のリスクが高まります。特に、以下のような細い血管が障害を受けやすいです。
合併症 | 詳細 |
腎症(じんしょう) | 腎臓の中の細い血管が障害されて、腎臓の機能が低下してしまう。その結果、体の老廃物の排出や血圧の調整ができなくなり、さまざまな障害が起きる。 |
網膜症(もうまくしょう) | 細い血管が通っている目の中の網膜に障害が起きる。進行すると視力低下や失明に至る可能性もある。 |
神経症(しんけいしょう) | 神経に栄養を与える血管の血流が低下して、ものを触って感じる「感覚神経」などに障害が起きる。感覚神経が障害されると、足に傷ができたことに気づきにくくなる。いつの間にか化膿してしまい、足が壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)することもある。 |
糖尿病患者の血圧コントロールの目安
日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019に、糖尿病患者さんの降圧目標値を以下のように設定しています。降圧目標値は合併症や併発症の状態によって変化するため自分の目標値を主治医に確認しましょう。
【糖尿病患者の降圧目標値】
診察室血圧 | 130/80mmHg未満 |
家庭血圧 | 125/75mmHg未満 |
高血圧を合併している糖尿病患者は生活習慣の改善が重要
高血圧を合併している糖尿病患者さんは生活習慣の改善が重要です。具体的には、以下のような方法で生活習慣を改善しましょう。
- 血圧測定を習慣づける
- 塩分は1日6g未満にする
- バランスの良い食事をする
- 運動習慣を取り入れる
- 禁煙と節酒を心がける
それぞれ解説します。
1.血圧測定を習慣づける
高血圧を合併している糖尿病患者さんは、自己血糖測定が欠かせないのと同様に、家庭での血圧測定が重要です。日々の血糖値や血圧を参考にして、生活習慣の改善や治療を進める必要があるためです。
一般的に緊張などによりやや数値が高くなる診察室血圧よりも、自宅でリラックスした状態で測定する家庭血圧が正しいとされています。血糖値を記録している糖尿病手帳と一緒に血圧値も記録しましょう。
2.塩分は1日6g未満にする
塩分の取りすぎは血圧を高めるため1日6g未満にしましょう。塩分をとりすぎると血液中の水分量が増えたり、ナトリウムの作用により血管が狭くなったりしてしまうためです。
減塩のポイントは「減塩調味料を使う」「香辛料やレモンなどで味付けをする」「麺類の汁は飲まない」などの方法があります。
3.バランスの良い食事をする
塩分だけなく、コレステロールなどを多く含む食べ物を避ける必要があります。コレステロールなどを摂りすぎると、脂質異常症(ししついじょうしょう:血液中に脂質が多い状態)を合併して、高血圧を悪化させる可能性があるためです。肉類や油物を避けて、野菜やきのこ、海藻などを積極的に食べるようにしましょう。
4.運動習慣を取り入れる
適度な運動は高血圧と高血糖の改善につながります。運動は、肥満やインスリン抵抗性の改善、動脈硬化の予防を期待できるためです。特に有酸素運動が効果的です。1日30分のウォーキングや水泳などを始めてみましょう。
5.節酒と禁煙を心がける
高血圧を合併している糖尿病患者さんにとって、節酒と禁煙は重要です。過度な飲酒は、インスリンの分泌を妨げ、血糖値を高めるためです。そして、動脈硬化が進行して高血圧も悪化する可能性があります。
また、長期的な飲酒は血圧の平均値を高めるため、高血圧を引き起こします。アルコール量は、1日20ml以下(ビールで500ml缶1本、日本酒で1合)を目安にしましょう。
タバコは、インスリンの作用を妨げたり、交感神経を刺激したりして血糖値を高めてしまいます。その結果、動脈硬化が進行して血圧が高くなってしまいます。
糖尿病合併高血圧の降圧薬の開始目安
糖尿病患者さんの高血圧の治療開始基準は、血圧が130/80mmHg以上である場合です。降圧薬は以下を基準にして始めます。