高血圧治療薬の種類や特徴とは?選び方とよくある質問もあわせて解説

高血圧症とは、血圧が継続的に高い状態(最高血圧140mmHg以上、もしくは最低血圧90mmHg以上)が続く疾患のことです。高血圧治療薬にはさまざまな仕組みで効果を発揮するものがあります。ここでは、高血圧の薬それぞれの特徴や選び方、そして飲み始めるべきタイミングなどについて解説します。

高血圧の薬の種類と特徴

高血圧の治療に用いられる、血圧を下げる薬のことを降圧薬(こうあつやく)といいます。降圧薬は働くメカニズムから、大きく以下の6つに分類できます。
※後発医薬品使用促進政策により、多くの製品にジェネリック医薬品が販売されています。ジェネリック医薬品の商品名は「有効成分の名称(一般名)+メーカー名」と表記されるきまりになっているので、どこの製薬会社が製造していても同じ名前です。

1.カルシウム拮抗薬

高血圧治療に最も多く使われる薬がカルシウム拮抗薬です。よく使用される理由は、副作用が少なく、薬価もあまり高くないからです。

カルシウム拮抗薬には、以下のような製品があります。

製品名有効成分の名称(一般名)特徴
アムロジン
ノルバスク
アムロジピン降圧効果がしっかりしているので、使いやすい。配合剤が多く、薬の量を減らしやすい。
アダラートニフェジピン降圧効果がしっかりしているので、使いやすい。早朝高血圧のコントロールもしやすい。
アテレックシルニジピン血管拡張作用以外に交感神経抑制作用もある。
カルブロックアゼルニジピン血管拡張作用以外にナトリウム排泄作用もある。
コニール
ヘルベッサー
ベニジピン
ジルチアゼム
冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)(異型狭心症)治療薬としてよく使われる。

カルシウム拮抗薬の中でも特によく使用される代表的な降圧薬が、アムロジン(ノルバスク)とアダラートCRです。これらの薬は高血圧の治療薬として第一選択になることが多いです。

副作用としては、以下のようなものが知られています。

  • 頭痛
  • 動悸
  • 足のむくみ
  • 歯肉肥厚(はぐきのはれ)
  • 過度な血圧低下

カルシウム拮抗薬を服用している方が注意しなくてはならない代表的な食品として、グレープフルーツやその加工品(ジュースなど)が挙げられます。グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗薬の飲み合わせが良くないのは、一緒に摂取するとカルシウム拮抗薬の代謝が阻害されて血圧を下げる効果が強く出てしまうためです。
しかし、グレープフルーツジュースをよく飲む人以外は、過度に心配する必要はありません。また、カルシウム拮抗薬の中でもアムロジンはグレープフルーツの影響を受けにくいとされているため、グレープフルーツジュースがお好きな方はアムロジンを選択するとよいかもしれません。

2.レニン・アンジオテンシン系作用薬

この分類に入る薬には、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB;エーアールビー)とアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I;エースインヒビター)の2つがあります。これらの薬は、カルシウム拮抗薬で血圧管理が不十分な場合に、追加として処方されることが多いですが、血圧を下げる作用の他に、腎臓を保護する作用もあるので、慢性腎臓病を持つ患者さんの場合には第一選択薬になることもあります。

レニン・アンジオテンシン系作用薬には、以下のような製品があります。

製品名
上から下へ強い順
有効成分の名称(一般名)特徴
ARBアジルバアジルサルタンARBの中で最も効果が強いと言われる。
オルメテックオルメサルタン2型糖尿病患者における糖尿病性腎症の発症抑制効果も報告されている。
ミカルディステルミサルタン作用時間が長く、早朝時高血圧にも有効。
ブロプレスカンデサルタン日本初のARB。降圧効果は比較的マイルド。
ニューロタンロサルタン世界初のARB。ARBの中では最も降圧効果が弱いので、腎臓や心臓を保護する目的で使用されることが多い。
ACE-Iレニベースエナラプリル心臓を保護する作用があり、心不全による死亡率を低下させる。

上記ARBの中で血圧を下げる効果が強い順に並べると、
アジルバ>オルメテック>ミカルディス>ブロプレス>ニューロタン
となります。ARBの中で種類を変更し、血圧を調整することもあります。

ACE-Iは血圧を下げる効果はそこまで強くありませんので、心臓を保護し、心不全の患者さんの生命予後を改善させる目的で使用されることが多いです。

副作用としては、以下のようなものが知られています。

  • 腎機能悪化
  • 高カリウム血症

ARBやACE-Iは基本的には腎臓を保護してくれる薬ですが、中等度以上に腎機能が低下している方に使用する場合、腎臓の血流を低下させ、更なる腎機能の悪化につながる可能性があるので、慎重に投与する必要があります。腎機能もカリウム値も血液検査の結果を見なければわからないので、定期的な採血が必要です。
ACE-Iの固有の副作用では空咳が有名ですが、この副作用を使って、高齢の患者さんに対して誤嚥性肺炎の予防目的も兼ねて、投与する場合もあります。
また、どちらの薬も胎児に悪影響があるので、妊娠したら中止しなければなりません。

3.アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:ARNI

慢性心不全の治療薬としても注目されているエンレスト(サクビトリルバルサルタン)(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:ARNI)はレニン-アンジオテンシン系を抑制する働きだけでなく、血管拡張作用や利尿作用なども持っています。2020年に降圧薬としても承認され、使われるようになりました。

「2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療」において、心臓の機能が低下した患者さんにすでにARBやACE-Iが投与されている場合は、ARNIへ切り替えることがClass Ⅰで推奨されています(Class Ⅰ=最優先)。

ARNIは腎臓保護作用のほか、不整脈を減らしたり、高尿酸血症や糖尿病などを改善したりする作用もあります。副作用としては腎機能障害や高カリウム血症などが知られているので、定期的な血液検査が必要です。妊娠中や妊娠している可能性のある女性が服用できないのも同じです。

4.利尿薬

降圧薬として使う利尿薬には大きく分けてサイアザイド系利尿薬とミネラル受容体拮抗薬の2タイプがあります。

各々の代表的な製品を下記の表にまとめました。

製品名有効成分の名称(一般名)特徴
サイアザイド系利尿薬フルイトラントリクロロメチアジド古くから使われている代表的なサイアザイド系利尿薬。
ヒドロクロロチアジドヒドロクロロチアジドARBとの配合剤に多く使われている。
ミネラル受容体拮抗薬アルダクトンスピロノラクトン心臓を保護する効果があり、心不全の治療薬として使用されることが多い。
セララエプレレノンアルダクトンの副作用である「女性化乳房」が少ない。
ミネブロエサキセレノン最新。非ステロイド型の薬剤で、セララ以上に副作用が少なく、降圧効果も強い。

サイアザイド系利尿薬は、塩分を多く摂取しがちな日本人に適している降圧薬です。古くから使われているので、有益性に関するデータも多く、単独でも併用でも心筋梗塞など動脈硬化性疾患の発症予防効果が示されています。その分、副作用としてナトリウムやカリウムなどの電解質異常が起こる場合があるので注意しなければなりません。

ミネラル受容体拮抗薬は、アルドステロンという副腎ホルモンが高い方に良い効果が期待できます。スピロノラクトンには女性ホルモン作用があるので、男性で女性化乳房や勃起不全などの自覚症状が現れる場合があります。ステロイド骨格構造を持たない、エプレレノンとエサキセレノンには、そのような副作用がほとんど見られません。

5.β遮断薬

β遮断薬は血圧を下げる効果はあまり強くありません。一方で脈拍をコントロールする作用に長けているので、頻脈性不整脈や期外収縮の治療に使用される他、心臓を保護する作用もあるので、心不全に主に用いられます。

β遮断薬の主な商品は以下のとおりです。

製品名有効成分の名称(一般名)特徴
インデラルプロプラノロール2つのβ受容体のどちらも遮断する。甲状腺機能亢進症による交感神経刺激症状に効果的。
メインテートビソプロロール心不全への適応あり。β1に選択的に働く。
アーチストカルベジロール心不全への適応あり。α遮断作用もある。

6.α遮断薬

主要な薬剤を使っても、目標血圧に到達しない場合に検討対象になります。α遮断薬の主な商品は以下のとおりです。

製品名有効成分の名称(一般名)特徴
カルデナリンドキサゾシン褐色細胞腫による二次性高血圧などに使用される。

治療抵抗性高血圧のほかに、早朝の高血圧を下げる目的で使われることもあります。副作用は多岐に渡るため、モニタリングには注意が必要です。

降圧薬の選び方

降圧薬は、以下のような視点で選びます。

1.効果で選ぶ

大規模臨床試験の結果から、高血圧治療ガイドライン2019では、第一選択薬として、利尿薬、カルシウム拮抗薬、レニン・アンジオテンシン系作用薬があげられています。降圧薬は以下のように薬を選択します。

  • 優先的に1日1回投与のもの使う
  • 20/10mg以上の降圧が目標の場合には、初めから併用療法も考える
  • 期待する降圧効果が得られない、投与困難なほど副作用が強い場合には作用メカニズムの異なる他の降圧薬に変更する

併用するときには、副作用をきたすことなく、降圧効果を高めるために、適切な組み合わせをするようにします。カルシウム拮抗薬もしくはレニン・アンジオテンシン系作用薬を最初に使い、目標に至れない場合に利尿薬を追加する方法が一般的です。また、エンレストの登場により、レニン・アンジオテンシン系作用薬をARNI(エンレスト)に切り替えるという使い方もされるようになってきました。

2.合併疾患で選ぶ

高血圧以外に下記のような疾患を合併しているときには、その疾患に効果的な薬を選びます。

【主な降圧薬の積極的適応】

カルシウム拮抗薬レニン・アンジオテンシン系作用薬サイアザイド系利尿薬β遮断薬
左室肥大
LVEFの低下した心不全〇*1〇*1
頻脈
(非ヒドロピリジン系:ヘルベッサー、ヘルベッサーR)
狭心症〇*2
心筋梗塞後
蛋白尿/微量アルブミン尿のある慢性腎臓病
*1:少量から始め、注意深く少しずつ増やす
*2:冠攣縮には注意
高血圧治療ガイドライン2019

心不全や頻脈、狭心症、心筋梗塞後には、高血圧治療だけのためには使われないβ遮断薬の使用を最初に考えます。ただし、β遮断薬だけでは降圧効果としては不十分なので、レニン・アンジオテンシン系作用薬やARNI(エンレスト)などその他の降圧薬の併用も考えます。その他、蛋白尿がある場合にはレニン・アンジオテンシン系作用薬など、合併症によって積極的に使うべき降圧薬があります。

3.利便性で選ぶ(配合剤)

配合剤を選ぶと薬の数が増えず服薬に手間取らないばかりでなく、薬価も安いというメリットがあります。そのため、担当医が必要と判断した場合には積極的に使用して良いでしょう。

日本では、現在、以下のような配合剤があります。

種類だけでなく、含まれる用量も様々です。配合剤は用量が固定されているので、最初は単剤もしくは2剤の併用から開始し、用量が固定したところで、配合剤へチェンジすることが推奨されています。

降圧薬を服用するうえでのよくある質問

Q1.どれくらいから血圧の薬を飲む必要があるのか

A1.高血圧症は、最高血圧140mmHg以上、もしくは最低血圧が90mmHg以上の高血圧状態が継続する場合に診断されます。診断されたら、最初に生活習慣の是正を図りますが、それでも降圧目標に至らないときに薬を飲み始めます。降圧目標は病態や年齢によって違いますが、75歳未満では診察室高血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満です。
かかりつけ医のための適正処方の手引き|高血圧患者の年齢・病態別の降圧目標

Q2.血圧の薬は、飲み始めたらやめられないのか?

A2.高血圧治療は動脈硬化性疾患を防ぐことが目標です。風邪薬のように治ったからやめるというわけにはいきません。したがって、降圧薬なしでも目標血圧を維持できるようになれば、薬はやめられます。しかし食事療法や運動療法は、原則として一生続けることになります。

Q3.血圧の薬の副作用や飲み合わせの悪い薬は?

A3.同じ医療機関で同時に処方されたものなら、医師が組み合わせも考えているので、心配いりません。ただし、他の医療機関を受診した場合には、服用している薬は医師に伝えましょう。また調剤薬局でもらう「くすりのしおり」などは手元に置き活用しましょう。

Q4.血圧の薬は高い時だけ飲めばいいか?

A4.薬をきちんと飲んでいる間は下がっていても、中断すると血圧がもとに戻ってしまいます。それだけでなく、降圧薬をきちんと飲まないと、脳卒中や心疾患などで倒れるリスクも高くなるとも言われています。降圧薬は医師の指示どおりに服用しましょう。

高血圧の薬で不安や困ったことがあれば医師に相談を!

高血圧症は放置すると、動脈硬化性疾患のリスクが上がり、命に関わることになる疾患です。食事療法や運動療法をしつつ薬を服用し、管理がうまくいくようになれば、医師の指導のもと、薬を途中でやめることも可能です。高血圧症の薬で不安や疑問、困ったことがある時は、気軽に医師に相談しましょう。

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