近年、米国心臓学会(AHA)が発表した研究で、アルコールの摂取により血圧が高くなりやすいことが明らかになりました。また過度なアルコールの摂取は、高血圧だけでなくさまざまな病気のリスクを高めます。
高血圧などの発症リスクを高めないためにも、健康に配慮した飲酒の方法を理解することが大切です。本記事では、飲酒と高血圧の関係性やアルコール摂取による病気のリスク、健康に配慮した飲酒方法について解説します。
アルコール(飲酒)と高血圧の関係性について
米国心臓学会(AHA)が発表した、米国・韓国・日本の20歳から70歳台前半までの成人を対象とした大規模な研究の結果、飲酒により血圧が高くなりやすいことが明らかになっています。まずは飲酒で血圧が一時的に下がる理由と、その後血圧が上がる理由について解説します。
飲酒で血圧が下がるのは一時的なもの
一般的にアルコールを摂取すると、一時的に血圧は下がり脈拍が増えます。血圧が下がり脈拍が増える流れは以下の通りです。
- アルコールの代謝により生成されるアセトアルデヒドという物質が血液中に増える
- アセトアルデヒドによる作用で血管が広がる
- 血液の流れがスムーズになり血圧が下がる
- 下がった血圧を補うために脈拍が増える
以上の作用はあくまで一時的です。日々のアルコールの摂取量が多いと血圧は上がっていきます。
飲酒で血圧が上がる理由
アルコールは、長期間飲み続けると血圧の平均値が上がっていき、高血圧症を引き起こしてしまいます。血圧が上がる理由は、アルコールに血管を狭くする作用や、心臓の拍動を速める神経を活発にさせる作用があるためです。
実際に米国心臓学会(AHA)が発表した、毎日アルコールを摂取する成人と摂取しない成人を比較した7つの研究で5年以上にわたって実施された調査結果によると、アルコール摂取量と血圧に関係性ついて以下のような結果が報告されています。
1日のアルコール摂取量 | 収縮期血圧(上の血圧) | 拡張期血圧(下の血圧) |
---|---|---|
平均12g/日のグループ | 1.25mmHg上昇 | 1.14mmHg上昇 |
平均48g/日のグループ | 4.9mmHg上昇 | 3.1mmHg上昇 |
上記の通り、日常的にアルコールを摂取すると、もともと高血圧ではない成人でも血圧が上がる可能性があることがわかりました。収縮期血圧の上昇は男性でも女性でも見られましたが、拡張期血圧の上昇は男性のみで、女性には見られなかったとされています。
過剰なアルコール摂取がもたらすのは高血圧だけではない
過剰なアルコール摂取は、高血圧のみならず、さまざまな病気のリスクを高めます。実際に厚生労働省の健康に配慮した飲酒に関するガイドラインによると、以下のようなデータがあります。
アルコール量(以下の数値を超える飲酒をする病気のリスクが高まる)
病名 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
高血圧 | 少量の飲酒でリスク上昇 | 少量の飲酒でリスク上昇 |
脳出血 | 150g/週 | 少量の飲酒でリスク上昇 |
脳梗塞 | 300g/週 | 75g/週 |
胃がん | 少量の飲酒でリスク上昇 | 75g/週150g/週 |
肺がん (喫煙者) | 300g/週 | データなし |
大腸がん | 150g/週 | 150g/週 |
食道がん | 少量の飲酒でリスク上昇 | データなし |
肝がん | 450g/週 | 150g/週 |
前立腺がん | 150g/週 | データなし |
乳がん | データなし | 100g/週 |
高血圧を予防するための適切なアルコール摂取量
厚生労働省によると1日に平均20gのアルコール摂取量が適度の飲酒であるとしています。ただし、女性の場合は男性よりも少ない量が適量です。一般的なお酒のアルコール量は以下の表を参考にしてください。
お酒の種類 | アルコール度数 | アルコール量 |
---|---|---|
ビール (中瓶1本500ml) | 5% | 20g |
清酒 (1合180ml) | 15% | 22g |
ウイスキー・ブランデー (ダブル60ml) | 43% | 20g |
焼酎 (1合180ml) | 35% | 50g |
ワイン (1杯120ml) | 12% | 12g |
高血圧を予防する健康に配慮したアルコールの摂取方法
お酒の飲み方を工夫すれば高血圧だけでなく、さまざまな病気の発症リスクを下げられる可能性があります。以下では、厚生労働省の健康に配慮した飲酒に関するガイドラインを参考にして、健康に配慮をしたアルコール摂取の方法を解説します。
1.自身の飲酒によるリスクを把握する
まずは自分の体と飲酒に関係するリスクを知ることが大切です。例えば医療機関を受診をして、医師に自分の健康状態とアルコール摂取のリスクについて説明を受けるのも良いでしょう。またお酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人は、体質的にアルコールに弱い可能性があるため注意が必要です。
2.飲酒量を決めておく
1日に飲む量を決めておくと、過度な飲酒行動の改善につながります。飲み会や晩酌の際に「ビールの場合は中瓶一本」「清酒の場合は1合」までと決めておき、1日アルコール量が20g程度で抑えられるようにしましょう。
3.飲酒前または飲酒中に食事をとる
アルコールは胃ではゆっくり吸収されますが、小腸に流れ込むと速やかに吸収される特徴があります。そのため食物が胃にあると、アルコールが小腸にゆっくり流れ、血液中のアルコール濃度が上がりにくくなります。空腹時にお酒を飲むのは控えて、飲酒前または飲酒中に食事を摂りましょう。
4.飲酒の合間に水を飲む
飲酒の合間に水などを飲むとアルコール度数が薄まります。それにより、アルコールがゆっくり分解・吸収され、血液中のアルコール濃度が上がりにくくなります。
5.1週間のうち飲酒しない日を作る
病気の発症リスクを高めないためには、1週間の内1〜2日はお酒を飲まない日を作ることが大切です。アルコールを毎日摂取すると、肝臓などの臓器に負担が蓄積されて、生活習慣病などの発症リスクを高めるためです。他にも毎日の飲酒はアルコール依存症のリスクが高まります。