肺塞栓症とは、血栓という血のかたまりが肺の血管に詰まってしまう病気です。
主な症状は、胸の痛みや息切れなどで、重症の場合は生命に危険が及びます。
肺塞栓症を予防するには、血栓ができる原因や血栓ができやすい人の特徴の理解が大切です。
ここでは、肺塞栓症の概要から原因、症状、検査内容、治療方法、予防方法を解説します。
重症化のリスクを下げるためにも、やってはいけないことや早期発見のポイントを解説しますので参考にしてください。
肺塞栓症とはどんな病気?
肺塞栓症とは、血栓などが肺の血管内に流れ込んで血管が詰まってしまう病気です。
血栓が肺の血管を塞いでしまうと、血液中の酸素の取り込みが障害され、全身に十分な酸素を含む血液が送り出せなくなってしまうので、生命に危険が及びます。
別名で「エコノミークラス症候群」と呼ばれています。
飛行機の狭い座席に長時間座った状態でいることが原因で、発症することが多いためです。
正式名は、肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)といいます。
肺塞栓症の原因
ここからは、肺塞栓症の主な原因と、血栓ができやすい人の特徴を解説します。
多くの原因は、下肢の血管にできた血栓
肺塞栓症の多くの原因は、下肢(脚・足)の血管にできた血栓です。
血管の血の流れが滞ることで、血が固まり、血栓ができてしまいます。
その血栓が肺の血管に流れ込み、肺塞栓症が発症します。
なお、下肢の血管に血栓ができた状態を、下肢深部静脈血栓症(かししんぶじょうみゃくけっせんしょう)といいます。
血栓以外のものでは、骨折の際に血管に漏れてしまった脂肪、血液に流れ込んだがん細胞など、特殊なタイプもあります。
血栓ができやすい人の特徴
血液が固まりやすい人や、血液の流れの悪い人は血栓ができやすいです。
具体的には、次のとおりです。
- 水分を十分に摂れていない(特に高齢者)
- 肥満や糖尿病などにより、血液の流れが悪くなっている
- 高血圧
- 車の運転や飛行機の搭乗などで長時間座っている
- 手術のあとや何らかの病気で、長期間下肢を十分に動かせていない
- なんらかの病気や薬により、血液が固まりやすくなっている
- 遺伝的に血栓ができやすい体質
血栓ができやすい薬で代表的なものとして、経口避妊薬ピル(OC)があります。
ピルを内服されている方は、血栓の発症に注意する必要があります。
他にも、手術やけがなどで血管が傷ついた場合、その傷のある部分は血栓ができやすくなります。
肺塞栓症の症状
次に、肺塞栓症の主な症状や注意すべき症状を解説します。
急な息切れや胸の痛み、咳などが現れる
肺塞栓症の主な症状は、急な息切れや胸の痛み、咳などです。
ただし、塞がった肺の血管の範囲や患者さんの健康状態によって症状は変化します。
塞がった血管の範囲が小さいと症状が現れない場合もありますが、塞がった血管の範囲が大きいと危険な状態です。
血液や酸素が十分に全身に送られていない状態となり、意識を失ったり心臓が止まったりします。
早期発見のポイントは下肢の症状
太ももからふくらはぎにかけて、「赤み、腫れ、痛み、ふくらはぎの太さの左右差」などの下肢の症状が出現した際は注意が必要です。
これらは下肢に血栓ができたときに発生する症状で、肺塞栓症に至る前の段階なので、すぐに医療機関を受診する必要があります。
下肢の症状が現れたあとに胸の痛みなどがあったときは、すぐに救急車などを呼びましょう。
肺塞栓症は造影CT検査で診断する
肺塞栓症の診断で重要とされている検査は、造影CTです。
造影CTとは、造影剤を足の血管から肺の血管まで流して、病気の場所を特定する検査です。
造影剤を血管に流し込むと、画像に血管が映し出されます。
しかし、血栓がある部分には造影剤が流れないため、血管が画像に映し出されず、その部分に血栓があると特定できます。
他にも、肺への血液の供給状態を調べる「肺換気血流シンチグラフィー」、下肢の血栓を確認する「超音波検査」など、状況に応じて複数の検査を組み合わせて診断します。
なお、胸の痛みや息苦しさなどにより受診した際は、次のような診察の流れになるでしょう。
- まず、体の酸素状態や血圧などを確認する
- その後、胸部レントゲン、心電図、採血などを実施する
- 肺塞栓症が疑われた場合には、造影CT検査を実施する
肺塞栓症の治療方法は重症度に応じて決まる
肺塞栓症の治療方法は、次のとおりです。
肺塞栓症と診断された際は、残っている血栓が新たに血管に流れないようにベッド上で安静にします。
また、体の酸素が足りていない場合は、酸素投与も実施します。
治療方法 | 詳細 |
抗凝固療法(こうぎょうこりょうほう) | 血液をサラサラにする薬を点滴注射または内服する療法。 血栓が少なく、呼吸や血圧が落ち着いている際に実施する。 |
血栓溶解療法(けっせんようかいりょうほう) | 重症の際に血栓を溶かす強力な薬を使用する療法。 注射またはカテーテルという細いチューブを用いて、直接患部に流し込む。 |
カテーテル治療・肺動脈血栓摘除術(はいどうみゃくけっせんてきじょじゅつ) | カテーテルなどを用いて血栓を取り除く療法。 極めて重症である際に実施する。 |
下大静脈(かだいじょうみゃく)フィルター | 下肢に血栓が残っている場合に、金属のフィルターを入れる療法。 フィルターにより血栓が肺に飛ばないようにする。 |
肺塞栓症の予防方法とやってはいけないこと
肺塞栓症の予防方法は、次の3つです。
- 下肢の運動
- 適度な水分補給
- 生活習慣の改善
できるだけ長時間の同じ姿勢は避けましょう。
かかとの上げ下ろしをしたり、足の指をグーパーしたりするだけでも効果があります。
下肢の運動としてマッサージも効果的ですが、前述した下肢の症状が出ている際にマッサージや激しい運動をやってはいけません。
マッサージや激しい運動により血栓が肺に流れていき、肺の血管を塞いでしまう可能性があるためです。
マッサージの代わりとして弾性ストッキングの装着は、血流のうっ滞を改善し、血栓予防につながるので推奨されます。
適度に水分を補給すると、血液の流れがよくなり、血栓を予防できます。
特に、高齢者の方は水分が不足しがちですので、意識的に水分摂取を行いましょう。
血糖値やコレステロール値、血圧を管理すると血栓リスクは下がります。食事内容や体重など生活習慣の改善を心がけましょう。タバコも血管にダメージを与えるため、禁煙を推奨します。
クリニックプラスでの肺塞栓症の診療の流れ
①血圧・脈拍・血中酸素飽和度(SpO₂)の測定
血圧・脈拍・血中酸素飽和度を測定します。
これらの値に異常があると、緊急性の高い状態であると判断します。
②問診
症状の有無や発症経過などを聞きます。初診の方からは基礎疾患の有無や嗜好品の有無、家族歴についても聴取します。事前問診にお答えいただくと、診察がスムーズに行われますので、ご協力ください。
③身体診察
聴診器を用い、心臓の音や呼吸音に異常がないかを確認します。
その他、足にむくみが出ていないかなど、医師が丁寧に診察を行います。
④検査
必要に応じて、採血検査、心電図検査、心臓超音波検査(心エコー検査)などを行います。
心エコー検査は肺塞栓症に伴い、心臓に負担がかかっていないかどうかを診断するにあたって有用な検査です。
心エコー検査にかかる時間は5分程度で、心臓にかかっているる負荷の状態をその場で評価し、結果をお伝えすることができます。
肺塞栓症を強く疑う場合には、造影剤を用いたCT検査を行うことで、確定診断を得ることができます。
造影CT検査は、近くの画像検査センターで撮影いただき、当院で結果を説明するという流れになります。
⑤薬の処方及び生活指導
外来診療で治療が可能と判断した場合、肺塞栓症の治療薬を用いて、治療を行っていきます。
また、弾性ストッキングの装着や日々の生活で注意するべき点などの指導を行っていきます。
⑥専門病院への紹介
酸素の投与が必要な方、点滴での治療が必要な方、緊急治療を要する方は、専門的な入院加療が受けられる、大学病院や総合病院へ紹介します。
クリニックプラスは多くの大学病院や総合病院と連携をとっておりますので、速やかに紹介することが可能です。
肺塞栓症は、治療が遅れると命の危険にさらされるリスクがあり、見逃してはいけない病気です。
突然の息切れや胸痛、足のむくみといった症状を認めた方は、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
クリニックプラスは平日20時まで、土日祝日も毎日診療することで、通院しやすい体制を整えています。
ご心配な方は、ぜひ一度相談に来てください。