糖尿病の三大合併症の1つに「糖尿病腎症(とうにょうびょうじんしょう)」があります。糖尿病腎症は初期には自覚症状が無いため気づきにくいですが、腎臓の機能を回復させるためには、早期に適切な対応を行う必要があります。早期発見、早期治療ができるよう、糖尿病腎症の症状や治療について解説します。
糖尿病腎症とは
糖尿病腎症は、糖尿病の三大合併症の1つです。まずはその原因や症状について解説します。
糖尿病腎症の原因は?
糖尿病腎症は、血糖値が高い状態が続き、腎臓が傷んでしまうことが原因で発症します。
腎臓では通常、約100万個の糸球体(しきゅうたい)によって、体の中のいらなくなった老廃物を排泄しています。糖尿病によって糸球体の細かい血管が壊れると、老廃物を排泄できなくなったり、逆に体にとって必要なタンパク質まで排泄してしまうようになったりします。
糖尿病腎症の症状は?
初期は尿にタンパクが出るくらいで自覚症状はありません。そのため、尿検査をしなければ気がつかないことがほとんどです。
進行すると、むくみや息切れ、疲れやすさや食欲の低下といった症状が出始めます。
さらに進行すると、顔色の悪さ、強い疲労感、吐き気、腹痛、手のしびれ、筋肉痛などの症状が現れます。
自覚症状が出る段階になると、腎臓を良い状態に戻すことが難しくなるため、初期の段階で糖尿病腎症を見つけることが重要となります。
糖尿病腎症の検査と診断
糖尿病腎症は初期には症状が無いため、気づかないうちに進行してしまいます。そのため、糖尿病のある方は定期的に検査を行い、早期に発見できるようにすることが大切です。
糖尿病腎症の検査
糖尿病腎症の検査には尿検査と血液検査があります。これらの結果から、糖尿病腎症の進行度合いを判定します。
- 尿検査で分かること 尿の中にタンパク質やアルブミンという栄養素が出ていないかを調べます。タンパク質やアルブミンは、体に必要な栄養素なので、通常は尿と一緒に排泄されることはありません。しかし、糖尿病腎症になって腎臓の糸球体が傷むと、このような栄養素が尿と一緒に漏れて出てきてしまいます。タンパク質やアルブミンがどのくらい尿の中に含まれるかで、糖尿病腎症の進行具合が分かります。
- 血液検査で分かること 血液検査では、推算糸球体ろ過量(eGFR)という、腎臓の機能の指標で分かります。
糖尿病腎症の病期分類
糖尿病腎症がどのくらい進行しているか、進行度合いを分類することを、糖尿病腎症の病期分類と言います。糖尿病腎症の病期分類は次のとおりです。
※eGFRの単位はml/分/1.73m2
①第1期(腎症前期):自覚症状はほぼなし。
尿アルブミン値 30mg/gCr未満(正常)
eGFR 30以上
②第2期(早期腎症期):自覚症状はほぼなく、ごく微量のタンパク質が尿中に漏れ出てくる。適切な治療によってタンパク質が尿中に漏れ出てしまう状態を改善させることもできる。
尿アルブミン値 30~299mg/gCr(微量)
eGFR 30以上
③第3期(顕性腎症期):むくみや息切れ、食欲の低下、満腹感などの自覚症状が出てくる。第3期以降になると、進行を遅らせることはできても、元の状態に戻すことは困難といわれている。
尿アルブミン値 300mg/gCr以上(顕性) あるいは 持続性尿タンパク尿0.5g/gCr
eGFR 30以上
④第4期(腎不全期):顔色が悪い、嘔気あるいは嘔吐、筋肉の強直、つりやすい、筋肉や骨の痛み、手のしびれや痛み、腹痛と発熱などの自覚症状が出ることがある。
尿アルブミン値 問わない
eGFR 30未満
⑤第5期(透析療法期):第4期と同様の自覚症状が出ることがある。
透析療法中
第1期、第2期では自覚症状がほとんどありません。しかし、その後の経過を良くするためには、この時期に発見して適切な対応をする必要があります。
糖尿病腎症の治療
糖尿病腎症と診断された場合、どのような治療を行うのでしょうか。ここでは各病期の特徴に合わせた治療方法について解説します。
糖尿病腎症の治療
血糖コントロールが治療の基本
血糖コントロールは食事療法、運動療法によって行うのが基本ですが、血糖値を下げる飲み薬や、インスリン療法も組み合わせて行われます。特に第2期、第3期では厳格な血糖コントロールが行われます。第2期の状態であれば、厳格な血糖コントロールのみで検査値が正常に戻る場合も多いです。
生活習慣の改善
減量、禁煙、飲酒制限などに取り組みます。
血圧コントロール
第3期の頃になると、腎臓の機能の低下によって血圧が上がることも多く、高血圧が腎臓の血管を傷つけて、さらに腎症が悪化するという悪循環を引き起こします。血圧が高い場合には、減塩食に取り組みながら、血圧を下げる薬を使い、血圧のコントロールを行います。
食事療法
第3期になると、尿の中のタンパク質が増えてきます。これまでの血糖コントロールのための食事療法に加え、減塩やタンパク質の摂取制限を行います。
透析療法(とうせきりょうほう)について
腎臓の機能が著しく低下した場合には、人工的に腎臓の機能を補うために「透析療法」を行います。全ての透析患者さんのうち、糖尿病腎症が原因で透析を受けることになった人が最も多い割合を占めています。
糖尿病腎症は早期発見・早期治療が重要
糖尿病腎症は初期には自覚症状が無いため気づきにくいですが、進行具合によっては、腎臓の機能を元の状態に戻すことができなくなってしまいます。糖尿病のある方は定期的に検査を受け、早期発見、早期治療ができるように注意することが大切です。
クリニックプラスでの糖尿病腎症の診療の流れ
①問診
初回の方はまず問診で、症状などから糖尿病腎症の可能性がないかなどを判断します。既に糖尿病の診断・治療を受けている方は特に注意が必要です。健診で尿蛋白を指摘された方も、糖尿病腎症を念頭におきながら、症状の有無や過去に指摘された病気などについて話を聞きます。LINEの事前問診にお答えいただけると、よりスムーズに診療を受けられます。
②身体診察
糖尿病腎症以外にも隠れた病気がないか、医師が丁寧に診察を行います。
③検査
血液検査と尿検査を行い、糖尿病腎症の診断を行います。
④生活指導及び処方(経口糖尿病薬やインスリン注射製剤)
治療において最も大切なのは、生活習慣の改善です。普段とっている食事や運動、嗜好品などを聴取し、改善できる部分に関して指導を行っていきます。生活習慣の是正だけでは血糖や血圧のコントロールが不十分な場合、飲み薬を処方します。既にインスリン注射製剤による治療が開始されている方については、血糖測定記録表や低血糖症状の有無などを確認しながら、インスリン量の調整を行います。
⑤専門病院への紹介
糖尿病腎症は早期に厳格な血糖コントロールを行うことで、元の状態まで改善が見込めます。専門病院での管理が必要と判断した場合には、速やかに糖尿病専門の医療機関をご紹介させていただきます。
クリニックプラスでは働く世代の方々の糖尿病をはじめ高血圧や脂質異常症などの生活習慣病の予防、管理に力を入れています。生活習慣病の治療は、日々の生活習慣の改善と、薬の内服・通院を継続していくことが重要ですが、仕事でお忙しい方々はそこがなかなか難しいかと思います。クリニックプラスでは、事前LINE問診や、事前クレカ決済システムなど、テクノロジーを活用することで待ち時間を少しでも短くする取り組みを行っています。また、平日は夜の8時まで、さらには土日祝日も毎日営業することで、通院しやすい体制を整えています。初期の糖尿病は自覚症状があまり出ないことも多いため、なかなか病気という認識を持ちにくいかもしれませんが、放置しておくと糖尿病腎症などの重篤な疾患の引き金になり得ます。健康診断などで糖尿病の疑いを指摘された方はぜひ一度相談に来てください。