脂質異常症のなかで高LDLコレステロール血症と診断される方は多くいますが、その中でも重症な方のなかには家族性高コレステロール血症と診断される方がいます。最近、注目されてきているもので動脈硬化が進みやすく心臓病を発症しやすいことから早めに治療することが勧められています。
家族性高コレステロール血症とは
高LDLコレステロール血症と診断される方の中に隠れている家族性高コレステロール血症。日本では、ちゃんと診断はされていないものの、実は家族性高コレステロール血症であるという方が多くいるといわれています。これは、家族性高コレステロール血症についてまだ詳しく知らない人が多いというのが理由の1つです。
家族性高コレステロール血症とは
家族性高コレステロール血症は高LDLコレステロール血症の方のなかでも生まれつき血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値が高い状態です。
若いころからLDLコレステロールが血管内に多すぎるため動脈硬化が進みやすいのが問題となっています。特に冠動脈と呼ばれる心臓の血管の動脈硬化が進むことで狭心症や心筋梗塞といった命に関わる病気を発症する人が一般の人に比べて多いのです。
どのくらいの頻度か
日本では家族性高コレステロール血症と診断されている人は500人に1人程度ですが、世界でみると300人に1人の割合といわれています。そのため診断されていない家族性高コレステロール血症の人がまだまだいるのではないかと考えられています。
遺伝する病気
家族性高コレステロール血症は特定の遺伝子が原因であることがわかっており、両親のどちらかが原因となる遺伝子を持っていると発症(常染色体優性遺伝)します。
両親からその遺伝子を受け継ぐ場合をホモ接合体、どちらか一方を受け継ぐとヘテロ接合体といい、ホモ接合体は治療の難しさや若いうちに心筋梗塞などで命を落とす可能性が高いことなどから難病に指定されています(難病に指定されていると、治療は公費でまかなわれるため医療費は無料です)。
家族性高コレステロール血症の症状と検査
家族性高コレステロール血症で特徴となる症状と検査について解説します。
LDLコレステロール値が高い
LDLコレステロール値は採血でわかる値で、健康診断では必ず検査項目として含まれています。LDLコレステロールが高いからといって、特に症状を自覚することはありません。しかし、家族性高コレステロール血症の人では、生まれつきLDLコレステロールが基準値を超えており、総コレステロールでみると一般の人が150mg/dlのところ、ヘテロ接合体の人は300mg/dl、ホモ接合体の人では700mg/dlまで高くなります。
腱や皮膚にできる黄色いできもの(黄色腫)
手や肘、膝などの関節部分にできる黄色いしこりを腱黄色腫といいます。眼の周り、まぶたにできるやや黄色みがかったできものは眼瞼黄色腫と呼ばれます。黄色腫はコレステロール値が高いとでるとみられるもので、家族性高コレステロール血症の方に多く、重症のホモ接合体では10歳までにでてくることが多いといわれます。レントゲンでアキレス腱を撮影し、アキレス腱が肥厚している場合も家族性高コレステロール血症を疑います。
若くして心臓病を発症する(早発性冠動脈疾患)
55歳以下で狭心症や心筋梗塞といった病気になる方の15人に1人が家族性高コレステロール血症といわれています。
健常な人に比べ10~20倍以上、心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患になりやすく、また、未治療のままだと男性で30~50歳、女性で50~70歳の間に冠動脈疾患を発症することが多いとされています。
そのため、診断されたら、定期的に頸動脈エコーや冠動脈CT、ABI(足関節上腕血圧比)といった検査で動脈硬化の状態を評価していきます。
遺伝子検査の異常
若くして冠動脈の病気を発症した場合や重症高LDLコレステロール血症のときなどに家族性高コレステロール血症の可能性を疑い遺伝子検査を行う場合があります。家族が家族性高コレステロール血症と診断された場合は、他の家族も遺伝子検査を受けることが推奨されています。そこで遺伝子変異が確認されたときには、家族性高コレステロール血症と診断され、治療を検討します。
家族性高コレステロール血症の診断基準
家族性高コレステロール血症は診断基準が成人、小児で分かれています。
成人(15歳以上)の診断基準
項目にあてはまるものがあれば家族性高コレステロール血症を疑います。2つ以上満たした場合は概ね診断にいたると考えてよいでしょう。
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高LDL-C血症(未治療時のLDL-C180mg/dL以上)
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腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
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2親等以内の血族で家族性高コレステロール血症あるいは男性の場合55歳、女性の場合65歳以下で狭心症または心筋梗塞(早発性冠動脈疾患)と診断されている
小児の診断基準
この項目を満たす場合には概ね家族性高コレステロール血症と考えて治療を開始する必要があります。
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何も治療しない状態でLDLコレステロール140mg/dlを採血で複数回確認
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2親等以内に家族性高コレステロール血症の人がいる
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親のLDLコレステロールが180mg/dl以上または、親あるいは祖父母が早発性冠動脈疾患を患っている
家族性高コレステロール血症の治療
生活習慣の改善
家族性高コレステロール血症は遺伝的な要素が大きいことから生活習慣の改善だけでは効果は不十分かもしれません。しかし、生活習慣の改善は家族性高コレステロール血症を含む脂質異常症だけでなく、生活習慣病全般の改善、動脈硬化の予防につながります。食べ過ぎに注意することや食事のバランス、身体を動かすこと、禁煙など生活習慣の改善に取り組みましょう。
詳しくは高LDLコレステロール血症のページをご参照ください。
薬物治療
生活習慣の改善も大切ですが、家族性高コレステロール血症では生活習慣を見直すだけではLDLコレステロール値をコントロールするのは難しいのが実際です。
薬の内服が必要になることがほとんどになり、まずは1種類から開始します。薬の量を増やしたり、2種類以上の薬を飲むことで多くの方に効果があらわれてきます。内服薬で効果が不十分の場合にはエポロクマブという皮下注射製剤を使用することで、治療効果が期待できます。
LDLアフェレシス
薬で効果が得られない超重症な家族性高コレステロール血症の場合にはLDLアフェレシスという治療が行われることがあります。腎臓病の人が血液を浄化するのに用いる血液透析装置のようなもので、血管と機械をつなぎ、機械の中でLDLを濾して体内にもどす方法で、用いられるのはごく稀なケースです。
クリニックプラスでの家族性高コレステロール血症の診療の流れ
①問診
家族性高コレステロール血症が疑われる方には、普段どのような食生活をされているかや運動習慣の有無、喫煙歴などを聴取させていただいた上で、血縁者に同様に高コレステロール血症を指摘された方がいないかなどを伺います。あらかじめLINE問診票でお答えいただけますといくらかスムーズに診療が進みます。また、健康診断で既に高LDLコレステロール血症を指摘されている方は、結果を持参ください。
②身体診察
家族性高コレステロール血症を疑うような所見がないか全身の診察を行うとともに、家族性高コレステロール血症に合併する疾患を疑うような所見がないかもあわせて、医師が丁寧に診察を行います。
③検査
血液検査でコレステロール値を測定します。既に健診で指摘されている方も、再検査を行いますので、当日は食事をとらないで受診ください。食後採血だと正しいコレステロール値が出ないため、日を改めて再検査になることがありますので、ご注意ください。
④生活指導および処方
食事療法や運動療法といった生活指導を行いつつ、薬物療法を開始します。定期的に採血を行い、コレステロール値の推移をみながら、薬の量を調整していきますので、飲み忘れがない様にご注意ください。
⑤専門医療機関へ紹介
内服薬の治療だけでは効果が不十分の場合や、遺伝子検査を必要とする場合などは、専門医療機関へ紹介させていただくこともあります。
家族性高コレステロール血症は日々の薬の内服が非常に重要な疾患です。しっかりと医療機関に通院して、定期的に採血検査で治療効果をチェックしていく必要があります。クリニックプラスでは、事前LINE問診や、事前クレカ決済システムなど、テクノロジーを活用することで待ち時間を少しでも短くする取り組みを行っています。また、平日は夜の8時まで、さらには土日祝日も毎日営業することで、通院しやすい体制を整えています。家族性高コレステロール血症は自覚症状があまり出ないため、なかなか病気という認識を持ちにくいかもしれませんが、重篤な疾患の引き金になり得ます。健康診断などでコレステロール値が高いといわれた方はぜひ一度相談に来てください。